「絵描きと酒飲んでたって、面白くないじゃん」

もともと印刷屋だったというアトリエは、雑多に見えるようで整っている。スケルトンの状態から壁や天井に木板がピシッと貼られ、友達の大工に作ってもらった広い作業テーブルの上には、絵の具や筆が手に取りやすい位置にまとめられている。毎朝9時にはここに来て、きっちり18時まで。遅くまでダラダラと仕事はしない。「前は夜にも描いたりしていたけど、昼間に動けないのが嫌で。なんなら午前中がいちばん集中できる。アトリエを共同で借りていた時期もあったけど、友達と一緒に仕事をしてもいいことなんかないね」。

ひと言でグラフィティーというと、少しやんちゃなイメージをもつ人もいるかもしれない。ESOWと出会った20年ほど前、私がやっている神田のギャラリーの壁や下町のリーガルウォールに描いていた頃には、そんな一面ももち合わせていたと思う。でも、今ここに来ると、おじさんのキャラクターのうるうるとした瞳や、規律のある端正な線を支えているのが、長年かけてたどり着いた絵と向き合う誠実さや、ひたむきな姿勢なのだとわかる。

「スキルを磨くには数をこなすしかないんだけど、絵を描くのは楽しいから。そうでないと、やってらんないよね。30年以上続けてきて、ようやく5年くらい前から、どんなポーズのキャラクターでも、何も資料を見ずに描けるようになったかな」。

浅草を拠点とするESOWのそばには、大工や左官など、職人も多い。ちょうどアトリエを訪ねたときは、家具職人との展示のための制作の真っ最中だった。「一緒にやることで、自分一人ではできない創作にたどり着ける。酒を飲むのもそうだけど、絵描きより職人とつるんでることのほうが多いかな。酒飲みながら絵の話してても面白くないじゃん」。

家具職人との展示も今年で5年目に。本場アメリカのシーンを体験しながら、描き続けるうちにひと目でESOWの仕事とわかる“日本のグラフィティー”に昇華した。その手仕事には、尊敬しかない。

撮影中も、黙々と手を動かしてキャラクターの顔を描いていた。ESOWさんの背後には、巨大な木造人間がいる!?

ESOW(グラフィティーライター、アーティスト)
東京・浅草を拠点に、ルーツである江戸や下町など、本場のグラフィティーを独自の解釈で作品に落とし込む。5月23日〜6月7日、東京・御徒町の「WOODWORK」で個展を開催。Instagram:@esowom