酒と肴をつまみながら、蕎麦を楽しめる京都の人気店「そば 酒 まつもと」。長谷川がこのお店に惹かれる理由は、肴のおいしさとその見た目にあるという。また、日本酒がメインなのだが、ワインを飲むこともできて、それがワイングラスではなく、湯呑みで提供される。その風情も好きなのだとか。店主の松本宏之さんは、そういう細部の見え方に気を抜かないし、むしろそういう細部にこそ全体の雰囲気が宿ることを知っている。だから、一度行ったらまた足を運びたくなってしまうのだ。話を聞いてみると、そのようなちょっとした部分の見え方に対する美意識は、肴のメニューを考える際にも一貫していた。
「自分、結構ビジュアルから入るんですよ。もともと、こういうちまちまとしたアテでゆっくり日本酒を飲むのが大好きなんです。撮影してもらった、紋甲イカともずくの佃煮もまさにそう。グチャッとなってるもんが好きなんですよ。粘り気とかね。何かそういうものをちょっとずつ舐めながら、飲みたいなっていうか。もともと、これもイカの塩辛的なねっとりとしたビジュアルのつまみでお酒を楽しみたいけど、ストレートにイカの塩辛だとつまらないなと思って作り始めました。地味だけどついつい酒と箸が進むみたいなビジュアルってあるじゃないですか。うちで出している貝柱となめみそ、花わさびしょう油漬けとかもそういう感じですね」。
松本さんが考えるセンスのいい肴は、お酒が好きじゃないと絶対に思いつけない。そして、本人の口から出た「ビジュアルから入る」という言葉。それは器選びから、お店の空間や松本さん自身の所作にも表れている。だからこそ、この蕎麦屋で飲む時間はいつだって楽しいのだ。
カウンターの向こう側で黙々と作業しながら、すっと酒と肴を出してくれる。凜とした姿が店内の雰囲気をつくっている。
松本宏之(そば 酒 まつもと 店主)
小学生の頃に蕎麦に目覚め、京都の名店での修業を経て独立。「紋甲イカともずくの佃煮」(¥680)は、奄美大島産のもずくを醬油とみりんで佃煮にしたものに紋甲イカの刺身を合わせている。