「同じものを何度も作れるのが職人。一度きりなのがアーティスト」という話を聞いたことがある。ストリートファッションの世界には、職人の手仕事が確実に存在する。ブランドロゴの制作とその製品作りの背景には、職人的な技術が欠かせないから。だからストリートの服にはロゴが輝く。どんな文字をどんなふうに入れて製品にするのか、その過程にはその筋のプロが、しっかり目を光らせている。ただ服をデザインすることとは違う、グラフィックデザイナーとも違う、文字やその表現に対する鋭い視点がそこにはある。

文/長谷川昭雄

これはNYのアーティストMQさんの作品。東京の渋谷で行われたイベントで購入したもの。

貼って終わりにしたくない

文/山下丸郎(stacks bookstore店主)

「路上の手仕事」。このお題を昭雄さんからいただき、ストリートな手仕事最前線をスタックス ブックストアの店主である私、山下丸郎がお伝えします。

知ってる人は知ってるし、知らない人は知らない。というか、気付かない。AEVIL LABELSの作るステッカーの美学やこだわりというのはそういうところに詰まっている。

スタートしたのは20年くらい前。職場に高性能な複合機があるという環境から、当時まだあまり身近ではなかった“フニャフニャの枠”のステッカーを、自分でプリントして製作してみようと思い、蛍光の紙を買ってきて自分でカットしたのが始まりだったそう。「子どもの頃から駄菓子カルチャーとか文房具が好きで。海外のグラフィティーの雑誌とかを見ても、何を使って描いてるんだろ?ってところが一番気になってたんだ」とAVEILは語る。

彼は周囲のグラフィティーライターたちとフィールドリサーチを重ねながら、インクや台紙などについて理解を深めていった。その存在が広く知られるようになったきっかけは、C.Eの下げ札のステッカーを製作するようになったことだった。「C.Eがスタートするくらいのタイミングで僕も独立して、(グラフィックデザイナーの)スケシンさんがステッカーを頼んでくれたんだよね。X JAPANのHIDEのキラキラしたピックを渡されて、こういう感じでって(笑)。僕も頑張って表現して納品したら、ヤベー!って喜んでくれて。嬉しかったな」。

CAHLUMNのために製作したこのステッカーの数々には、AEVILが培ってきた技術と道端の知恵が詰まっている。「どう凄いのかってのは分からないかもしれないけど、ぱっと見でなんか凄そうだぞ!?ってのは狙ってる。本来は貼ったら終わりってものなのに、それだけじゃないっていうかさ。そこまで求めてくれる人がいるから楽しいんだよね」。

AEVIL LABELSがCAHLUMNのために作ったステッカーの数々。20年前にコピー機印刷からはじめ、日々の道端研究により改良を重ねている。

反復練習の末に描けるようになる文字がある

グラフィティーというカルチャーについて一から説明するには少しページ数が足りないので、今回は日本国内を拠点にそれぞれ20年以上のキャリアを持つグラフィティーライターであるJOTAとSECTの二人に話を聞き、グラフィティーライターの持つ作家性について考えてみる。

二人はそれぞれが独自のフォントともいえる文字を操り、スタイルを確立しているライターだ。「逆に言えば、これしか描けないんですよ」(SECT)。「最初に描き始めたときはキャラクターとかにも挑戦したけど、そんなにしっくり来ないというか、文字の方が面白かったんです」(JOTA)。

彼らの文字に対する鋭敏な感覚は、誰かに教わった訳ではなく独学で体得したものだ。もちろんそこにたどり着くのは簡単なことではなく、想像を絶するほどの反復練習が存在している。「今でも毎日描いてる。テレビ見ながらとか。やらないとなんか調子狂うっていうか。しつこく描いてるかどうかってのは、その文字を見れば分かる」(JOTA)。「同じ文字をひたすら繰り返して描いてます。FANTAというアーティストがNYの分厚い電話帳に練習でひたすら描いていたので、真似してジャンプとかに描いてました」(SECT)。

二人から強く感じるのが、いまだにグラフィティーを楽しむ気持ちの強さと、新たなスタイルを求める探究心だ。「もう生活に染み付いてるんですよ。これいいなって一度思ったら、ソワソワしちゃって」(SECT)。「ライターだったら皆いつになっても新しいスタイルが欲しくなるんじゃないかな。凄いしつこく描いてると、だんだん形が出来てくるんですよ。たまにちょっと描くとかじゃなくて、ずーっと続けていると出てくる」(JOTA)。

好きだから描き続ける、そういうシンプルな思いが背景にあるからこそ、彼らの表現はピュアで、揺るがない強さを持っている。

JOTAさんのグラフィティーが描かれた作品。

SECTさんのグラフィティーが描かれた作品。

刺繡の微差に向き合うのが楽しい

刺繡工房、Laugh and Sunnydayの堀川卓也さんは決して刺繡に妥協をしない。それは、妥協するくらいならやらなくて良いと考えているからであり、こだわればこだわった分だけ良いものができるということを知っているからだ。つまり、堀川さんにとって完全なるゴールは存在しない。「極端な話、昨日作った刺繡のデータと今日作ったデータを比べても全然レベルが変わっているんですよ。自己満というか、ほとんど誰も気付かないかもですけど(笑)。お客さんから前のデータで追加をお願いされたら、データもいつも作り替えています」。

堀川さんの手掛ける刺繡は機械で行われるものだが、依頼のあったグラフィックやロゴを刺繡機にセットするためのデータ化だったり、使う針や資材の選定に下準備など、堀川さんがこれまでの経験に基づきながら、一つ一つ最適な形を導き出している。「結局いくらAIとかが進化しても、手作業だったり、人の手を加えないと完成しないものって絶対あるんですよ。ある程度こだわってものを作るには、絶対に人が必要なんです。全部自分で考えて、正解を探していく作業だから面白いんですよね。気付いたら時間が過ぎちゃってて、全然量産に取りかかれてない!みたいなこともあります(笑)」。

決して妥協しない姿勢はクオリティを追い求めているからだけではない。堀川さんにとって、良い刺繡を仕上げることは純粋な喜びなのだ。「本当に楽しいから一生やれますね。一つの刺繡が出来上がるまでにどれくらいの時間がかかって、どれくらいの熱量がこもっているのかっていうことを知ってもらって、刺繡の面白さを伝えていけたらと思っているんです」。

Laugh and Sunnydayの堀川さんによる刺繡キャップ。この写真のキャラクターも実はちょっとずつ違っているそう。