マルディ グラのアイルランド産仔羊とローズマリーのロースト、古代小麦のパスタ添え

今年で25周年を迎える銀座のビストロ、マルディ グラ。オーナーシェフの和知徹さんは肉の巨匠と呼ばれる存在。お店ではフランス料理をベースにした、さまざまな肉料理を出してくれる。3月にはレシピ集『和知 徹シェフのビストロ料理帖』を刊行。「今回、大人のひと手間というお題をもらったときに、いろいろ悩んだのですが、自分の原点である羊料理について書いてみることにしました。いつも大事にしているのは、素材のよさをいかしてシンプルに作ること。だから、このアイルランド産仔羊を使ったメニューもローズマリーと塩だけで調理している。そこに付け合わせとして、古代小麦のトマトソースパスタを添えることで満足してもらえたらうれしい。ショートパスタだったらパスタを巻く動作がないから、おしゃべりを中断することなく、肉と一緒に味わってもらえるなと思って」。そんな細部にまで和知さんのホスピタリティが詰まった一皿。

アイルランド産仔羊とローズマリーのロースト、古代小麦のパスタ添え¥6,500


文/和知 徹(マルディ グラ シェフ)

高校生の時に、大学の留学生だったケニア人のBさんにブリティッシュイングリッシュを習っていた。プライベートレッスンだったから先生の家に行って会話するのが授業。ある日「シチューをつくったから食べませんか?」と言われた。部屋には独特だが旨そうな匂いが充満している。Bさんはテーブルに皿とカトラリーをセットしながら紅茶を淹れてくれた。体験した事の無い香りに僕は夢中になった。Bさんは、「これはマトンだよ」と教えてくれたのだが、この時美味しいと感じなかったら、ずっと嫌いだったに違いない。

それから年月が経ち、料理を自分でつくれるようになった頃には、その独特な香りも活かせるようになっていた。でももう一つ納得していなくて悶々とする日々が続いていた。

普段から誰かが整えてくれた食材を、当たり前のように手にして料理している自分が、傲慢な気がしていたのだ。育てたり、世話したりして最後は自分で屠畜して料理する。日本だと難しいけれど何処かで出来ないだろうか?と探し始めた。

その思いが叶ったのが、中央アジアのある集落の遊牧民の家。彼らは自分達の財産や家族同然の羊を無闇に食べない。慈しみ感謝してお祝いの時に屠って、家族全員で食べる。山深い村で食べた羊は格別で今も忘れられない。