代々木上原駅近く、渋谷区西原にある創業102年のクリーニング店。お話を伺ったのは、その二代目店主の塩入章二さん。長谷川もスーツのクリーニングは必ずここに出すほど信頼を寄せている。父親は高輪にある「カラキヤ」で経験を積み、暖簾分けという形で独立したが、現在は本店とのつながりはないそう。営業時間は9時から19時で、洗濯・アイロン、その後宅配サービスまでのすべてを塩入さんが一人でこなしている。日常的に14.5ポンドのアイロンを使用していたため腱鞘炎となってしまい、現在はワイシャツや布団などは受けつけていない。
料金は衣類の状態で変わるが、スーツ¥9,350〜、ロングコート¥11,000~。
文/塩入章二(クリーニング師)
父が始めたこの「カラキヤ洗染」で、クリーニングの道に入ったのは、中学を卒業してすぐのことでした。それから数えて今年で63年目。こだわりを持ち始めた20代後半には「俺の技術は世界一だ」なんて大口を叩いたこともありましたが、もっと経験を重ねていくと自分の仕事に100%満足することができなくなってしまった。そんな時、知人に言われたんです。「仕事は満足しきることがないからこそ、続けられるんだ。それに気づけてやっと一人前だよ」と。今もその言葉がしっかりと胸に刻まれています。
数ある衣類の中でも、一番難しいのは背広です。機械でやればすぐに終わると言われますが、上着一着の仕上げに30分はかけます。肩、袖、胴…それぞれのパーツに適したアイロン馬を使い分け、立体的に仕上げています。
肝は、最後に手掛ける襟の部分。既製服のようにピシッと折り目を付けるのではなく、私はふわっとした丸みを持たせた「丸襟」で仕上げます。襟の中に入っている芯地には糊が付いていて、そこに蒸気を通してしっかりと押さえることで、はじめて美しいハリが生まれます。でも頭で考えるより先に、手が動く。アイロンを持って仕上げにかかると、不思議と「ここをこうしよう」と形が作られていくんです。
正直、今でも自分を「職人」だとは思っていません。ただ、プロとしての意識はあります。お客様に「どうすれば服を綺麗に保てるか」という知識を伝えることも、大切な役目。ご自身でケアできれば、私の手間は減りますし、お客様の利益にもなる。売上よりも、お客様の生活がプラスになるきっかけを教えられたら、それでいいんです。
一度にたくさんの数を受ければ儲かるかもしれません。でも、そういう感覚で仕事はしていません。洗うのも仕上げも私一人。難点があるものも、なんとか工夫してクリアしてお返しする。父から受け継ぎ、ただ実直に続けています。