試着フェス®の会場に並んだ10部門がどのような視点で選ばれているのか、担当スタイリスト3人が詳細に解説。部門ごとのイチ推しアイテムまで、すべてを語り尽くす!
担当:カバーオール、ロングコート、カラーニット、テーラードジャケット
担当:ネルシャツ、アノラックパーカ、レザースニーカー
担当:レザージャケット、ショルダーバッグ、ダウンベスト
担当スタイリストが語る10部門はどう選ばれた?
UOMO 今回で13回目を迎える試着フェス®ですが、これまでよりもトレンドやこの秋冬に狙うアイテムを明確にするため、3人のスタイリストと入念な打ち合わせを重ねて、いま試着すべき10部門を決めました。あらためてどのような視点で各部門のアイテムを集められたか教えてください!
豊島 カバーオール部門は、ワークテイストが上品にアレンジされているアイテムを意識して集めました。総合1位に選ばれたクリスタセヤ フォー ビオトープのジャケットのような、コーデュロイだけど細うねで、襟の生地が切り替わっているものをチョイスしたり。新鮮なアイテムとしては、ヨーコサカモトといったUOMOではあまり取り上げてこなかった気鋭ブランドを選んだり、シルク混のデニムを使っているサンモントをピックアップしたりしています。
庄 レザージャケットも似ているかもしれません。今季はレザージャケットが特に多かった。だから、「こんなのもあるよ」といろいろ提案したい気持ちで選んでいるのですが、どちらかというとレザーの存在感はありながら武骨さを感じさせないデザイン、シルエットにしていて。「バチバチにファッションしてます!」というより、気張りすぎず、さらっと取り入れられる感じが気分だと思っていて。
UOMO レザージャケットって強く見えがちですが、今回はモダンにデザインされたアイテムが人気でした。
庄 やはりそうですよね。艶のあるレザーを使ったがっつりダブルのライダースだと、UOMO読者にはちょっと違うのかなと。そういう意味で、オーラリーのレザージャケットみたいな、古着のような質感とシルエットだけど、着地点はあくまで上品というアイテムに票が集まるのは納得。これは名品と呼ばれる予感がする。
松川 確かにね。この佇まい、古着屋にありそうでないんだよな。
庄 あとルメールがネイビーだったり、グラフペーパーがダークグリーンだったり、カラーレザーも選んでいます。これくらいの色ならかわいげがあって、大人が着るのにもちょうどいいなって。
豊島 確かに、試着フェス®も長いから、新しい風を吹かせたい気持ちはあるよね。これまではステンカラーコートが人気だったけど次にくるアウターは何かなということを考えた。ダッフルコートやピーコートもいいと思ったけど、この冬は特にクラシカルなスタイルがトレンドなので、チェスターフィールドコートを一つの部門として選んでみました。
UOMO 参加者も今回はチェスターに特化していることに驚きつつ、普段あまり試着することがないジャンルだから新しい発見があったようです。
豊島 それなら提案してよかった! 例えばシュタインのチェスターフィールドコートは、いろいろなデザインがミックスされているから、UOMO読者が初めて挑戦するにはいいなと思っていました。袖とポケットはステンカラーコートっぽくて、かつラグランスリーブでシルエットもゆったり。ただ、ピークドラペルなので、クラシックなムードもある。このバランスが支持されたのかなと思います。
松川 確かに! いわゆるクラシックど真ん中じゃなくて、トップ10の中でこれがいちばん手に取りやすいかも。
豊島 次にカラーニットですが、発色がいい、または色使いが珍しいアイテムを選びました。バウルズもフィッシャーマンズニットだけど明るいグリーンだったり、ボーディもモヘアカーディガンだけどパープルだったり。
庄 赤や青が人気を集めるのは予想できたけど、確かにこの二つのカラーに票が集まったのは面白いですね。
豊島 おじさんが着てもかわいげが出るものを前提に選んでいて、シルエットがよかったり、明るい色だけどトーンが落ち着いたニットを選ぶことで、秋冬に色を足すならいいかも、と思ってくれたんじゃないでしょうか。スタジオ ニコルソンのワイドシルエットのドライバーズニットは、僕の気分でもある赤が選ばれて予想どおりでした。
UOMO 前に言ってましたもんね。
豊島 だから、ちょっとうれしい! この勢いでテーラードジャケットも語ります(笑)。前号で「紳士服」のテーマをやって、ジャケットを着るのってあらためていいなと思いました。が、いろいろな好みの方が来る試着フェス®では、クラシックが気分とはいえドレスすぎると日常着としてはまだ着にくいかも…なんて思ったり。なので、全体的にシルエットやディテールに若干カジュアルさがあって、同時に品よく見えるジャケットを集めました。
松川 色も落ち着いたものが多かったよね。
豊島 ユーゲンのジャケットは、肩がドロップせずほぼジャストなんだけど、身幅とアームに太さがあって、シルエットが抜群にいい。黒コーデュロイも品よく見えるんです。
松川 モデルになってくれた読者の方のスタイリングもすごくいいよね。汚れたペインターパンツと薄手のニットをゆるく合わせているというね。
豊島 まさにこういうバランスで皆さんが着たいのかなって。ヨークはダブルの仕立てなんだけど身幅がゆったりしていたり、ルメールは丈が少し短くて、マーガレット・ハウエルはパッチポケットにしているとか、やっぱりカジュアルな要素があるものがランクインしています。“ザ・ドレス”というアイテムも会場にはあったけど、読者は選んでいなかったな。
"トレンド"と"気になるもの"二つの視点から提案してみた
UOMO アウターなどの重衣料に自然と目がいく中で、意外にもネルシャツが人気を集めて、全アイテムの中から総合3位に選ばれました。
松川 今回担当することになったときに、ネルシャツはぜひ部門としてやりたかったんですよね。今の日本の気候だと活躍する期間が長いし、個人的にネルシャツが好きで新品古着問わずいろいろ買っていて。いろいろな厚さのものをピックアップしましたが、参加者に選ばれているのはライトネル、ミディアムネルが多かったですね。
庄 プリントネルやクレイジーパターンが上位に入っていたり、チェック柄のネルシャツと言っても、いろいろな個性があるんですよね。で、やっぱり品のよさも重要と。
松川 古着屋で手に入る定番のビッグマックやファイブブラザーみたいなシャツではなく、ブランドが落とし込んでいる価値を意識しました。ヴィンテージをサンプリングしながら作られているシャツもたくさんあるけど、柄やディテールなど自分たちの背景を反映して作るものを、試着フェス®ではぜひ着てほしかった。個人的にティー・ティーとオーラリーのオンブレチェック系は一見古着っぽいけど、素材がいいというギャップがある。そこが“大人が着るネルシャツ”として支持された理由だと思います。
UOMO 引き続き松川さんがセレクトしてくださったアノラックパーカですが、これも普段から愛用されているんですか?
松川 そうですね。職業柄、屋外でロケ撮影をするときに、ガバッと着られるアノラックが重宝するのでいつも気にして探しているんです。手軽に着られるし、下にシャツやニットを合わせたり、上にさらにアウターを重ね着して遊べたりするので、参加者の皆さんにぜひともおすすめしたくて。自分は赤とかヴィヴィッドな色が好みですが、ベーシックな色まで幅広くセレクトしています。ミズノ フォー マーガレット・ハウエルが人気だったのは納得です。
UOMO みんな試着していて、その人気ぶりを感じましたね!
松川 このコラボは長くやっていますが毎回いい。ミニマムなデザインでシルエットもちょうどよく大きくて、普段のスタイルに取り入れやすいですよね。同じように、フレッシュサービスの白とネイビーのツートーンカラーもすごく使いやすいと思います。
庄 次は僕のショルダーバッグですね。ショルダーバッグはかっちりした格好にもラフなスタイルにも合う。今季はレザー素材が増えていて、アイテムを集めながら「やっぱり世の中の大人たちはショルダーバッグを求めているんだ」と確信しました。ナイスネスのショルダーバッグは大きさ的にもデザイン的にも、ファッション性と使いやすさを両立していて人気なんだなと。
豊島 会場に並んでいたのは、シンプルなデザインやベーシックカラーが多いよね?
庄 ラインナップはミニマルな形やデザインにフォーカスしています。個人的にバッグはいろいろなスタイルに品よく馴染むことを重視してるので派手な色は選びませんでした。また、ルメールをはじめとする三日月型が続々と出始めていて、僕自身も気になっていたので選んでいますね。対して、かわいげのある色や素材を選んだのがダウンベスト。さっき松川さんから気候の話もありましたが、今の日本でファッションとして楽しむなら長袖のダウンより、ベストがいい。暖房がきいた電車に乗るときなどにはちょうどいいし、圧倒的にレイヤードの可能性が広がるんです。
UOMO 確かに。短丈のオーラリーのベストに関しては、コートの上に着たいという意見が多かったです。
庄 コンパクトなシルエットがかわいいですよね。見たらとりあえず、袖を通したくなる(笑)。で、着たらシルエットが面白いし、レイヤードの想像が膨らんだのかなと。
松川 定番のブラックがあまり選ばれてないのは意外だった。
庄 ダウンベストを一点突破的なアイテムと考えた人が多かったから、カラーやデザインがユニークなものがランクインしたのかもしれないですね。
UOMO 最後は、松川さん担当のレザースニーカーです。
松川 今回来場者の皆さんに提案するアイテムの基準として、「雰囲気のあるスタイルをつくれる」という意味での“野暮ったさ”を意識していて。レトロなアッパーデザインであったり、往年の名品を踏襲しているモデルだったり、ハイテクよりはローテクを選びました。その中でも、上品なものが上位にきたという印象です。ルメールのレザースニーカーによって薄底トレンドが証明されましたね。これはガムソールのバランスが絶妙で大人が履きやすいデザインになっていると思います。
豊島 自分もレザースニーカーの中でこれが1位です。
庄 自分もです。気になっていました。
松川 なるほど。みんなのベストワンアイテム、聞きたいな。
思い入れを熱烈プレゼン、担当部門の個人的ベスト1
UOMO 3人がそれぞれの部門のアイテムを集めていて、「これいいな」「自分も買いたいな」と思ったイチ推しをぜひ教えてください!
豊島 クリスタセヤ フォー ビオトープのカバーオールですね。ほんのり土くさい感じもありながら、細うねのコーデュロイで、がばっとはおれるハーフコートくらいのシルエットが、こなれた雰囲気をつくってくれるんです。僕が今アウターを選ぶなら、カーキやブラウンがいいですね。
庄 ゆったりしたサイズや大きめのポケット、いい感じですよね。レザージャケットはオーラリーが好きです。生地、シルエット、デザイン、価格すべてにおいて満点。この価格で販売できているのが本当にすごい。
松川 バランスがいいよね。それはファッション業界の人はみんな思ってるはず。
庄 あと、C.Eのレザージャケットのイタリア古着を想像させる形もツボ。
豊島 チェスターフィールドコートはビズビム推し。ラペルやシングルの前立てがシンプルだけど、着ると計算されているデザインだとわかります。自分の服とも合わせやすかったのでおすすめ。
庄 シャツからスウェットにまで合うし、スタイルを問わず着られそう。
豊島 カラーニットではヴェイランスに惚れましたね。首の詰まり方とタイトすぎないコンパクトなシルエットが絶妙。ゆるいニットに飽きた人は見てほしい。今季ヴェイランスは初めてニットを出したようです。僕、買います。
松川 知らなかった。アウトドアブランドのニット、かなり気になる。
豊島 テーラードジャケットは、バウトが個人的によかった。今季からメンズがスタートしたブランドで、女性デザイナーの視点で作る服ということで、カッコいいと同時に美しい。
松川 ブラミンクやイレーヴのようなムードというか。チェック好きとしては、この控えめな柄も愛嬌があっていいですね。ネルシャツもモダンな配色のオンブレチェックに惹かれたティー・ティーがベスト。肌触りのいい起毛感のある生地やラフになりすぎないサイズなど、UOMO読者世代の僕たちが着るのにぴったりだなって。
庄 僕も別の企画でリースしました(笑)。オープンカラーで抜け感もあって、モノとしてカッコいいです。
松川 だよね。次のアノラックパーカはモンベルが好き。というか、もう持ってます(笑)。農業用シリーズのアイテムで、農作業に適したいろいろな機能を備えているレインウェア。防水透湿機能も抜群で、こういう専門職のためのウェアなのに、ファッションとして着られるものに惹かれます。
庄 わかります。ストーンアイランドのマリーナ・コレクションのアノラックもかわいいですよね。ショルダーバッグはトレンドの三日月型も好きだけど…実物を見たらグッド グッズ イッセイ ミヤケがよかった。シンプルなデザインが使いやすい。入れるものが少ないほどに、身体にピタッとくっついてアクセサリー感覚で持てる。
豊島 このバッグ、めちゃくちゃ薄かったよね。着こなしのアクセントになると思って気になっていた。
庄 ですよね。ダウンベストは圧倒的にモンクレール。“餅は餅屋”にです。ダウンのクオリティは言うまでもなく、ブラウンのコーデュロイという生地選びも素晴らしい。
松川 わかる。胸にフラップポケットをつけているところもしゃれている。レザースニーカーの中ではナイスネスを履きたい。ワークシューズっぽいフォルムに、表情が違うレザーを組み合わせて使うことで、武骨さとクラフト感がミックスされている。ガシガシに履きつぶしたら自分だけの味が出そうで。
庄 履き続けた先の雰囲気を考えて選ぶのも楽しいですよね。
UOMO 振り返り、ありがとうございました! 最後に、今回の試着フェス®をやってみていかがでしたか?
松川 自分は久々にスタッフとして試着フェス®に参加したんですけど、豊島さんと庄さんが集めるアイテムに発見があって、勉強になりました。集める人と選ぶ人のそれぞれの視点が交わっていて面白かった。
庄 こちらこそありがとうございました! 人気アイテムの予想が当たることもあれば、正直、部門ごとのトップ10から落ちたアイテムにもいいものがたくさんあったから残念な気持ちもある。
松川 今回すでに自分の色は出したんだけど、次はよりスタイリストの色が出る部門があってもいいのかなって。トレンドはある程度SNSを見ていれば追いかけられるし、せっかくなら、未知のジャンルの服をもっと試着してほしい。例えば「松川の部屋」をつくって、スタイリストが直接接客するくらいの気持ちで来場者にプレゼンしてね。
庄 10個くらい部屋があるみたいな! ただ、熱く話しすぎて参加者がなかなか帰れないみたいな(笑)。
豊島 将来的にそれができたらいいね(笑)。 乞うご期待です!













