
成功者が欲する、未知なる挑戦。
先の6月に開催されたパリ・メンズ・ファッションウィークの期間中、眉目秀麗なモデルたちがランウェイを闊歩する華やかなファッションショーの諸会場を尻目に、パリ3区でひとり気を吐く日本のブランドがあった。それは、ディレクターの南貴之(みなみたかゆき)が手掛ける日本ブランドの「Graphpaper(グラフペーパー)」だ。
今から10年と半年前の2015年2月、キーワードに“キュレーション”を据えたセレクトショップとして、渋谷区神宮前5丁目の閑静な住宅地の一角に「グラフペーパー」はオープン。今回、仏・パリの地にて初めて催されたポップアップストアは、ブランドの創設10周年を記念した次の一手だった。

南貴之:ファッションウィーク期間中のパリの街は苦手です。浮き足だっている気がして。
気温40度を超える猛暑日もあったパリから帰国し、日本での展示会も終え、ようやく落ち着いた頃。原宿の喧騒から距離を置いたヘッドオフィスである「alpha.co.ltd」(以下、alpha)にて、同社代表を務める南貴之にパリ初進出の手応えを聞いた。
パリ向けに撮影した限定ヴィジュアル





パリ進出にあたって、改めて「グラフペーパー」ではオフィシャルヴィジュアルを作成している。いわばブランドの自己紹介のようなものだ。上掲ルックはその一部であり、すべて定番商品を使用したコーディネート。日本国内の2026春夏シーズンにおいて販売されるものも含まれているが、その性質上、シーズンレスの部類に入る。
非売品の招待状



南が開封してくれた風呂敷包みの中には特製のスウェットシャツが入っていた。バックプリントには「INVITATION」の文字が。南が厳選して送付したというパリ現地の招待状は、「グラフペーパー」が得意とするアイコニックな“商材”だった。
南:そのまんま。私なりのおもてなしです。
初開催となる「Graphpaper POP-UP STORE IN PARIS」は、2025年6月26日(木)から29日(日)の4日間に掛けて開催。現地住所の「21, Rue Chapon」はパリ3区と4区にまたがるカルチャースポット、マレ地区(Le Marais)にあたる。



南:今回のパリでの施策は、10周年を機にこれからのブランドの方向性について模索した結果です。ヨーロッパの市場で販売したいというよりも、「試してみたい」という気持ちのほうが強かった。
オフィス内に構える談話室にて出迎えてくれた南。こちらの意図をのらりくらりとかいくぐる飄々とした受け答えは相変わらずだが、過去のインタビューと比較して、数字面や売れ行きの状況までいつになく率直に話してくれた。意外だった。
パリのポップアップはこんな感じ

南:それにしても、ですよ。40代の半ばをとうに過ぎて、こんなにフレッシュな気持ちになるとは思いませんでした。客商売の厳しさは世界共通ですし、異国の商売人が簡単に成功するわけがない。渡航前は“オケラ”も覚悟していたほどです。
オケラとは“売り上げゼロ”のこと。厳しい言葉とは裏腹に、南は楽しそうなのである。



現在、パリに「グラフペーパー」の実店舗はない。重要な施策となるポップアップストアのパートナーとして南が選んだ「ILL-STUDIO(イル・スタジオ)」は、モードの都にて多くのデザイナーやクリエイターたちがタッグを組む集団だ。

目指すは、会場全体で「グラフペーパー」の世界観を体験できるポップアップストア。この南ならではのディレクションは、東京の「グラフペーパー」の実店舗に足を運んだ経験があるスタジオメンバーとのディスカッションで構築していった。
南:テンションが上がるショップの空間が好きと言ってくれる顧客が日本には多いです。パリで受け入れられるかどうかは半信半疑でしたが、とにかく自信のあるもの全部入りで臨みました。
そう、お家芸とも言える“真っ黒な什器に洋服が収納された体験型ストア”が、パリでも踏襲されたのだ。果たして、来場客の反応は?
“ローカル”な人々の審美眼



南:地元に根差した“ローカル”のお客さんほど、厳しい目を持っているものです。目つきが違う。こちらも本気になる。本当に怖いですよ。
ちなみにalphaは、今年5月にヨーロッパ市場における中核拠点として、オランダ・アムステルダムに現地法人(alpha AMSTERDAM B.V.)を設立。また、四半世紀前の社会人ルーキー時代の南は、海外ダイレクトバイイングと自社製品の製造・販売を主軸とするH.P.FRANCE (アッシュ・ペー・フランス株式会社)で働いていた経験がある。


フランス、特にパリとは少なからず縁があり、「まだ次の秋冬をチャレンジする途中なので…」と南は明言を避けた。だが、今回の施策をグローバル化への試金石として捉え、将来的に常設店をパリに出店する計画であることは明らかだ。
南:いくつか宿題をもらいました。経営者として、ディレクターとして、解かねばならない。
来秋冬もまた、同じ場所、同じチームでポップアップストアを開催予定。春夏の4日間のポップアップ開催期間で明らかになった分析結果をもとに、タイムリーな商品を提案しようと試行錯誤中である。要は、日本人客との趣向の違いだ。
パリからもらった宿題



南:1つは、サイズについてのトレンドが日本よりも落ち着いていました。一見さんでもすぐに「グラフペーパー」とわかるビッグシルエットに、少し抵抗感があるように見受けられたのです。
これは難題のように思われる。「グラフペーパー」はもとより海外規格に近いほどのオーバーサイズだ。アイコニックなフォルムバランスを捨て去ることはないだろうが、次の秋冬ではグレーディングを少し標準値に近付けるのだろうか?
南:もう1つは嬉しい誤算というべきでしょうか。ブラックやホワイトよりもアイコンカラーのグレーが売れました。数を盛っておけばよかった。


パリの服好きにとって、霜降りグレーやコンクリートグレーは新鮮に映ったのだろうか。実際、SNSで拡散されているパリの街角ファッションスナップでもレアカラーであることは統計的に確かである。
南:付け焼刃のようなマーケティングはいくらでもできるんです。日本でもあれだけ苦労している色出しが評価されて、今は素直に嬉しい。

南:サイズについては少し違う見方をしていて、洋服の本質に改めて気付かされました。見栄えのするルックスももちろんですが、こだわりのディテールや微細な縫製技術など、メイド・イン・ジャパンのクオリティのほうを注目してくれていたのだと。
南貴之の感覚が「グラフペーパー」のすべて。来秋冬の2度目のパリ出店が今から楽しみである。
南:4日間での出来事はすべて前向きに捉えています。日本発信の「グラフペーパー」を、パリのローカルな人々にもっと受け入れてもらいたい。
Graphpaper POP-UP STORE IN PARIS
会期:2025年6月26日(木)~29日(日)
会場:21, Rue Chapon, 75003 Paris, France