父から譲り受けたイギリス製の
トレンチコート

「大人って必ずトレンチコートを着ると思っていました。
このコートを受け継いで、やっと父親に追いつけたかな」

デーヴィッド・マークスさん/ライター

「もともとこのトレンチコートは、自分が6歳ぐらいの頃、父がロンドンへ旅行した際に買ってきたものです。子どもの頃から父がこのコートを着ている姿を見てきたので、ずっと大人というのは、着丈の長いコートを着るものなのだというイメージがあったんです。僕は25歳くらいまではストリートファッションが好きで、毎日Tシャツにジーパンという格好をしていました。しかし、だんだん白髪が目立つようになりそういうスタイルが似合わなくなってしまったので、一転して今のようなトラッドな服装に移行したんです(笑)。そのときから、父親が好んで着ていたクラシックなファッションを意識するようになりました。そして昨年末、アメリカに帰省した際にクロゼットの奥にこのコートがしまってあるのを見つけて、父にお願いして譲り受けたんです。ちょうど父がこのコートを買ったくらいの年齢になり、憧れのトレンチコートを自分も着こなせるようになって、ようやく大人になれた気がしましたね」


Aquascutumの
カシミヤチェスターフィールドコート

「大人の振る舞いをしないと、
逆にコートに着られちゃいそう」

細川克己さん/Tweed Books 店主

洋服やデザインにまつわる本を多く取り扱う古書店、ツイードブックス。店主の細川さんが会社員として働いていた30歳ぐらいのときに出会った、アクアスキュータムのカシミヤのチェスターフィールドコートには、着るだけで大人になったと感じさせてくれる魅力があったという。「真夏のある日、よく通っていた横浜の古着屋さんからこのコートが入荷したと教えてもらいました。まだ暑かったにもかかわらず、とても気に入りすぐ購入。着てみると手がコートに触れ、思わずニヤけてしまうような柔らかさだったんです。洋服でこのような心地よさを味わったのは初めてでした。カシミヤの力で自分をより大人に見せてくれるのではないかという思いもありましたね(笑)。今でも特別な日に着ることがあるのですが、コートの品のよさにふさわしい所作をしなくてはと、自然と背筋が伸びるんですよね」。


PRADAのレザーコート

「今までいろいろな洋服を買ってきましたが、
このコートが人生初の勝負服です!」

尾崎雄飛さん/SUN/kakke デザイナー

「19歳のとき、ファッションデザイナーになりたくて高校を中退し、あるだけのお金をかき集めて憧れのイギリスに渡りました。ただ、学校に通うほど余裕はなかったので、老舗ブランドから古着屋までひたすら洋服を見て回る日々を送っていました。そんなときに出会ったのがこのプラダのレザーコート。見た瞬間、これを手に入れなければ絶対に後悔すると思い、生活費をすべてつぎ込んで買った執念の一着です。その後日本に戻ってきて、デザイナーになるにはまず販売員を経験しようと思い、地元名古屋のセレクトショップの面接を受けに行ったんです。誰よりもかっこよくなくてはいけないと思っていたから、文字どおり面接官に勝負を挑むような気持ちでこのコートを身にまといました。無事採用が決まり、それがファッション業界に足を踏み入れる第一歩になりました。あれから20年たちデザイナーになり、あらためてこのコートに袖を通すと当時の思い出が甦ってきて、自分の原点はここにあることを実感しますね」


HERMÈSのダッフルコート

「初めての大人の買い物と、
洋服作りの原点が詰まっています」

大島裕幸さん/HERILL デザイナー

「先シーズンデビューしたばかりながら、贅沢な素材使いで注目を集めるヘリル。デザイナー大島さんの原点となった一着は、アシスタント時代に買ったエルメスのダッフルコートだ。「20年ほど前、ケイタ マルヤマでアシスタントをしていたとき、初めてパリコレクションに行った記念として買ったのがこのオレンジのダッフルコートです。当時の金額で40万円ぐらいと、余裕があったわけではないので、なかなか手が出ない値段だったのですが思い切りました。憧れの地パリで憧れのブランドの最高級のコートを買う。初めてそのような贅沢な大人の買い物をしましたね。昔から古着が好きだったので、ヴィンテージのつなぎの上にはおったり、古着とミックスして着ていました。値段の高さにひるまず、そのままバイクに乗っていたので、よく見ると黒い煤がついています(笑)。だけど今でも着られるぐらいきれいな状態。自分がブランドをやっていくうえでも、このような長く着られる服を作りたいという思いは常にあります」。


POLO RALPH LAURENのゴム引きコート

「異国の地で、大人として振る舞うために買った
思い出のゴム引きコートです」

岡田哲哉さん/GLOBE SPECS オーナー

「NYに転勤したての’80年代半ば、私はまだ27歳くらいの若造で…寒い街中を山高帽とロングコートで歩く方々が素敵に見えたものです。アジア人はただでさえ子どもっぽく見えますし、自分はそんな大人たちにまだまだ満たないと感じながらも、勤めていたお店はセレブリティがふらっと来店するようなところ。しかるべき姿でありたいと常日頃、感じていました。そこで背伸びするような気持ちで購入したのが、このポロ ラルフ ローレンのゴム引きコート。思い出深いですね」


MACKINTOSH×JACK SPADEの
シングルカラーコート

「憧れの街で見つけたコートで
大人の階段を上る」

浅本 充さん/フードディレクター

「20代の頃、フードディレクターになるために、各国の食生活のリサーチを兼ねて、興味があった海外の街に住んでいたんです。このコートは、NYで暮らしていたときによく遊びに行っていたジャックスペードの店で発見。フォーマルなアイテムだと思っていたマッキントッシュに白Tとジーンズと合わせたディスプレイを見て、ずっとスケータースタイルが好きだった私はすぐに『これが大人の着こなしだ』と惹かれました。定価では高くて買えなかったので、セールを待って購入。今日みたいにパーカに合わせながら十数年着続けているんです」


Photos:Arata Suzuki[go relax E more] Shintaro Yoshimatsu Takahiro Idenoshita Teppei Hoshida Toru Yuasa
Text:Jun Namekata[The VOICE] Hisamoto Chikaraishi Takako Nagai