2022.05.28

祐真朋樹の密かな買い物 |Vol.95 人を愉しませる服

3月中旬、無事3度目のワクチン接種ができた。と同時に、35年目に突入する花粉症が爆発! そして日々報道されているウクライナの状況。人生には、大なり小なり常に問題が襲ってくる。いつなんどき僕たちに襲いかかるやもしれない。人間は言葉をもっているのに、紛争当事者も大国のリーダーも、言葉で解決しようとしない。時代を逆戻りさせてはいけない。NO WAR!

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 CATVイッツコムチャンネルの「ウド様おねが〜い!!」という番組に出させていただいた。番組の構成としては、ウド鈴木さんとのトークと、横浜自慢の名店料理を味わうというもの。結果的には、生まれてからこれまでの僕の人生の話を聞いてもらって、おいしい手作り餃子を味わった。スタイリングやおしゃれについての質問もあったが、この世界に正解はないので、なんとなくおしゃれにつながったのではないかというエピソードを話した。トークをしていたら、自分の口から「目の前にいる人を愉しませる」という言葉が出て自分でも驚いた。別に用意していた答えではない。ポロッと出た。ポロッと出たその言葉は、その後もずっと、収録が終わるまで、僕の頭でリフレインしていた。「目の前にいる人を愉しませる…目の前にいる人…」。目の前に座って僕の目に映っていたのは、ウド鈴木さん、その人だった。ウドさんは、思っていたとおり、いや、それ以上に温もりを感じさせる人だった。話しやすい状況をつくってくれ、素敵な時間を提供してくれた。



 僕は帰り道も「目の前にいる人を愉しませる」という言葉についていろいろと考えていた。事前にプロデューサーから聞いていたのは、当日のだいたいの流れだけだったので、ウドさんがどんな格好で来るかは知らなかった。当日の僕の格好は、今回のイラストからブロックチェックハットを除いたいでたち。前日の夜までどんな格好をしようか迷いに迷った。ランバンコレクションメンズのチェックのセットアップや小花柄のボウブラウス、ヤンチェ_オンテンバールのレザーブルゾンなども候補だったが、ウドさんが柄の服やヤンチェ_オンテンバールの服を着てくる気がして、それで黒に白パイピングのセットアップを選んだ。インナーは五分袖のタートルネックセーターだ。



結果、ウドさんは柄の服でもヤンチェ_オンテンバールの服でもなかった。が、話の途中で、思い出深いヤンチェ_オンテンバールのファーストシーズンのコートを出してきてくれた。香取慎吾さんのドローイングが内側のライナーにあしらわれた、記念すべき第1号商品である。僕は、そのコートをはおるウドさんの襟を触ったり、ウドさんが持ってきたスカーフを巻いたりしてウドさんをスタイリングしていた。僕は、ウドさんに、すっかり愉しませてもらっていた。スタイリングするしないにかかわらず、着る人がその服に関心をもって着ている姿に僕は惹かれる。鏡や窓ガラスの前で、思わず自分の格好を見ている人を見るのが好きだ。似合う、似合わないにかかわらず、そうした光景を見ると気持ちが穏やかになる。つい最近、「祐真君、服は気晴らしだからね」と人生の大先輩に言われた。そうだ! 服を着たり、買ったりするのは気晴らしなんだ。それが、たとえ黒い服であっても、穴があいていても、はたまた絢爛豪華なものであっても、気晴らしになるなら何よりではないか。服には、気持ちを切り替えさせてくれる力がある。



 日々、ウクライナの報道を見聞きしていると、命が軽んじられているとしか思えない。誰が英雄? 悪者? どうでもいいから今すぐ止めろ! 人は殺し合っていいわけがない。何にも解決にならない。今すぐ殺し合いを止めろ! まずは、目の前にいる人を愉しませようよ、と伝えたいのである。

(左・中・右)3枚の五分袖のタートルネックセーターは、この春夏のランバンコレクションメンズで作ったもの。ブロックチェックのバケットハットも、同じくランバンコレクションメンズだ。ブロックチェックのバケットハットは、柄ものだけど、比較的何にでも合わせやすい。五分袖のタートルネックは左からレモンイエロー、ブラック、ミントグリーン。ちなみに、イラストで着ているのはエクリュであります。
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Text:Tomoki Sukezane
Illustration:Sara Guindon
Photos:Hisashi Ogawa

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