デイヴィッド・ホックニーの色に導かれて。南貴之が語る今春夏の「グラフペーパー」
ポップアート界の巨匠であるデイヴィッド・ホックニーの絵画に着想を得た「グラフペーパー」2022年春夏が始動。ブルーの内装に一新した青山店で、クリエイティブディレクターの南貴之に「色に執着した」という今春夏への想いを聞いた。

デイヴィッド・ホックニーの色に導かれて。南貴之が語る今春夏の「グラフペーパー」
ポップアート界の巨匠であるデイヴィッド・ホックニーの絵画に着想を得た「グラフペーパー」2022年春夏が始動。ブルーの内装に一新した青山店で、クリエイティブディレクターの南貴之に「色に執着した」という今春夏への想いを聞いた。

仮に、南貴之がプールに飛び込んだとしたら、いったいどれほどの水しぶきが上がるのだろう?
その水しぶきを影響力と捉えるならば、クリエイティブディレクターの南が手掛ける「Graphpaper(グラフペーパー)」の最新作に特徴的な色のインパクトも、「とても大きな水しぶき」と言い換えられそうだ。
暗い世相を打ち破るような美麗カラーと新規の染色にこだわった2022年春夏は「COLORS」がテーマ。満を持してと言おうか、「グラフペーパー」の今春夏は、英国が誇るポップアート界のリヴィングレジェンドであるデイヴィッド・ホックニーの絵画に見られる色使いがインスピレーション源になっている。

南貴之:洋服作りに携わる者ならば、ポップアート界の巨匠、デイヴィッド・ホックニーという存在は誰もが通るし、通りたくなる道でしょう。
なぜ、2022年の今なのか?
今春夏よりグラフペーパー青山店の一角に設けられた「女性のためのグラフペーパー」のスペースで、南貴之にクリエイションの背景を聞いた。

南はブランドの立ち上げ当初から「デザイナー」の肩書きは使わずに、「クリエイティブディレクター」の肩書きを名乗っている。彼独特の、世の中の本流から故意に一歩引いているかのようなスタンスからは、気負いへの反発、反動が伺えることがある。
南:なんとかの影響でこれこれ…とか、アパレル日報みたいなありきたりな予定調和が昔から大の苦手です。ですが、珍しく明るいカラーパレットの提案は、ありきたりですがコロナ禍の閉塞感が少なからず自分自身に影響した結果なのかもしれません。
意外だった。テーマは1年ほど前に確定するというが、「意識下でのコロナ禍の影響」なぞ、南を語るうえでのNGワードとして認識していたからだ。

fragrance Yes for Graphpaper “COLORS” Aroma Gift Set
内容:スプレー・エッセンシャルオイル・ディフューザー
価格:¥7,480
南:マスク生活も2年くらい経ちますし、暗い世相と言えば確かにその通りでしょう。社員や工場さんをはじめ様々な専門職との日々の関わりの中で、深層心理に影響を受けることもあるのだろうと思います。それをポジティブに受け止めています。
傍らに置かれた新作フレグランスのネーミングも「COLORS」。ディフューザーに使われたエメラルドグリーンはホックニーの絵画でよく使われるカラーだ。「女性客も意識しています」とぶっちゃける南の言葉は、迷いなくふっきれたパワーにあふれている。
南:暗い話はもうこりごりだよと思うこともたまにはありますよね。そのときふと、本棚にあるホックニーの作品集に目が留まった。そんなところです。

立ち上がりに応じてグラフペーパー青山店の内装はブルーに一変。ポップアートを語るうえで欠かせないホックニーの代表作「A Bigger Splash」(1967)で印象的な、水しぶきの波紋を連想させる。
南:ポップアートのエッセンスを織り交ぜた今春夏の「グラフペーパー」を着て、新鮮なカラーコーディネートを楽しんでもらいたいですね。

そう、アーティスト然としたナードな佇まいから1960年代を象徴するファッションアイコンとしても有名なホックニーだが、「グラフペーパー」のテーマは「David Hockney」ではなく「COLORS」。南の提案は至ってシンプルで、わかりやすい。
フロア中央のラックには、鮮やかな色彩が載せられたコットンニットとベストが並んでいる。大人男子に向けた今春夏のお勧めも、やはり毎シーズン心血を注いでいるアイコンカラーのグレーなのか?

こちらのニットが、「グラフペーパー」では絶対に失敗しないグレーだ。同じグレーでも秋冬に並んでいたコンクリートのような色味とは趣きが異なる。
南:もちろん今春夏らしい油絵の具のようなグレーはお勧めです。加えて、ホックニー作品を連想するオリジナルの絶妙なカラーにも注目して欲しい。
果たして、南が導かれた「絶妙なカラー」はグレーのすぐ隣にあった。主張も控えめなスタンスで。

Suvin Crew Neck Cable Knit
カラー:YELLOW, GRAY, BLUE, LIGHT GREEN
素材:COTTON 100%
価格:¥35,200
グレーと見間違えそうなほどに絶妙なその新色は、「ライトグリーン」。まるで苔と混ざり合った屋外プールの水面のようなカラーパレットだ。
南:ホックニーの作品は祖国のイギリスからアメリカのカリフォルニアに拠点を移した1960年代後半の絵が好みです。このライトグリーンから、当時のホックニーが住んでいたプール付きのモダンな邸宅を思い出してしまうファンもきっといると思います。
2022年春夏のメンズシーンで盛んに取り上げられている、流行色のグリーンから派生するライトグリーン。前秋冬までのモノトーン中心の「グラフペーパー」と合わせると、さらに輝きを増しそうでもある。

インタビューの最中、カメラマンのために稼働式ラックを均等なバランスで引き出してくれた南。おもてなしのムードと考えて間違いない。
そういえば、新調された内壁のカラーもブルーと言うには大雑把すぎる。店舗も洋服も、彼のディレクションがあってこその着地点なのだから。
南:ホックニーの作品からブルーを抽出しようとすると、澄み切った空のような…というわけにはいきません。マイノリティが直面していた当時の社会情勢が影響したのかはわかりませんが、のっぺらとしていて重たいし、どこかシュールな雰囲気さえある。

Resin Wool Oversized Double Jacket
カラー:LIGHT GREEN, SMOKE BLUE, DARK BLUE
素材:WOOL 100%
価格:¥79,200
大人男子へのお勧めアイテムとして、ラックからピックアップしたもう1つのアイテムも同じライトグリーンのダブルのジャケット。半年毎にシーズンテーマに沿った色の開発を試行錯誤しているというが、この色に至るまでも様々な紆余曲折を経ている。
南:今春夏は難産でした。イメージとサンプルとのすり合わせはこちらからの要望で幾度となく重ねましたが、最近は工場さんの方から前のめりに催促されることも増えています。自分でも驚きですが。
常に攻めているイメージだが、たまに攻められることもある。どういうわけか、楽しそうだ。

昨年はデニムラインの開発やアートギャラリーの運営、私物放出フリーマーケットの定期開催など、ディレクションが多岐に渡った南。
2022年春夏が軌道に乗った今、ありきたりではあるが、心境を色で表現してもらった。
南:グレーの中でも霜降りグレー。ちょっぴりブルーな気分も混ざっているのかな。

ちなみに、取材時に南が着ていた霜降りグレーのスウェットは、2022年春夏で即完売1番乗りの商品である「グラフペーパー」の「ループウィラー」別注アイテム。在庫のある商品を自ら着て訴求するなど、野暮なマインドは持ち合わせていない。
南:本来ならばそうすべきなのかもしれません。すでに完売した商品を店側の人間が着て登場してしまうというこの根性は、自分ではどうしようもない。シンプルに、良い服だと思うから。
Anything simple always interests me.
– David Hockney –
あまりにも有名なデイヴィッド・ホックニーの名言。「腰が痛い」と億劫がりながらも、取材日のコーディネートに取り入れてくれていたのだった。

スウェットの胸元に施されたこのメッセージに、今の南が拠り所にする答えがある。「ようやく気付きましたか」と言わんばかりに、地に足の着いたクリエイティブディレクターはこの日1番の笑みを見せた。
2022年春夏シーズンも、「グラフペーパー」と南貴之の頭のなか、その両方に期待しよう。
グラフペーパーの旬をもっと知りたい!
Interview & Text:Takafumi Hojoh