2022.02.26

祐真朋樹の密かな買い物 Vol.92 マイ・ヴィンテージ|2022年2・3月号

2000年前後に買ったラグジュアリーな洋服。今袖を通してみると、あらためてそのよさに気づく。ミラノ、パリ、ロンドン、ニューヨーク…。海外渡航を繰り返していたときの記憶が甦る。最近は服作りにも参加する機会を得て、過去の体験を企画に生かせることがうれしい。今回はそんな時代に買った3アイテムを紹介。パリ3大ブランドは、昔も今も輝き続ける。

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21年の春頃から毎朝歩くようになった。昨年のコロナ禍での緊急事態宣言のときは、3密を避けるあまり家にいることが多く、すっかり太ってしまった。これまではいていたパンツが苦しくてはけなくなり、“こりゃまずい”と歩き始めた。だらだら歩いていては意味がないので、当然、ちょっと息が切れるくらいの早歩き。そのかいあって最近はサイズが元に戻った。



そんな夏のある日、某雑誌の企画で自ら古い服を着て誌面に出ることになり、トランクルームをあれこれと物色した。結果、誌面に登場させた服のほかにも今でも着たい服が数点あったので、自宅のクロゼットへ持ち帰った。今回紹介する3アイテムは、思い出が詰まった“今また着たいマイ・ヴィンテージ” である。



まずはイヴ・サンローラン リヴ・ゴーシュ・オムのタートルネックセーター。確か1999年に買った。当時のディレクターはエディ・スリマン。エディとは、その前年の’98年、サンローラン・ジーンズの東京でのショーを手伝ったのをきっかけに仲よくなった。それまでまったく興味がなかったイヴ・サンローラン リヴ・ゴーシュにがぜん興味が湧いてきた。このタートルネックセーターの魅力は、高い襟のデザイン、そして高級タイツのような肌触りと伸縮性だ。袖、胴体ともにフィットしてボディコンシャスだが、春からの早歩き散歩の効果で着られるようになった。織りネームに使われている懐かしいロゴがエレガントである。リヴ・ゴーシュの両脇に使われたピンクとオレンジ色のブロックのデザインも好きだ。



ディオール オムのコートは、そのエディ・スリマンが、クリスチャン・ディオールに招かれてディオール オムのディレクターに就任した翌年、2001年に買ったと思う。内側につけられたフリンジのようなディテールに惹かれ、直線的なシルエットに心を奪われた。強い張り感のある黒々とした素材も圧倒的に新鮮だった。今回の撮影中に袖を通すと、編集者とカメラマンに「今着ても普通に格好いい」と言われ、以降、再び着ている次第である。



エルメスのパンツは、確か2001年にミラノのサンタンドレア通りにあった店で買った。当時はパリ本店よりも空いていて買い物しやすかった。100%コットンの超太うねコーデュロイだが、後にも先にもこんなに立体感のある、それでいて滑らかなコーデュロイは見たことがない。当時は衝動的に買ってはみたがほとんどはく機会はなく、この秋本格的にはきだした。はいていると贅沢な気分が味わえる。最近忘れかけていた「優雅」の二文字を思い出させてくれるパンツである。3点とも2000年前後に購入したものだが、どれも丁寧な匠の技と気遣いが随所に施されている。効率など無視して作られた服は、20年たった今でも、着る者を豊かな気持ちにさせてくれる。まるで芳醇なワインのように、何年もの時を経て、ますます唯一無二な輝きを放つのである。



20年ものである3点を今らしく着る最大のハードルは「買ったときの身体のサイズに戻さなければならない」ことだろう。そのために始めたわけではないが、春先からの早朝早歩きの頑張りは僕とマイ・ヴィンテージの縁を広げてくれた。ますます断捨離とは縁遠くなるが、古くて懐かしいものを新しく着るというスタイルは、地球環境問題に少しだけ役立っているか〜もしれない。

(左)エルメスのコーデュロイパンツ。うねの膨らみにシビレました。深みのある黒と重厚な質感とが相まって、奥行きのある本物感が漂います。(中)ネックの高さ、伸縮性、肌触り…すべてが絶妙にエレガントなアイテム。ありそうでないので、いつまでも大切に着たい。(右)ウールサージのコート。表はシンプルなデザインだけど、裏には黒いフリンジが効いてます。前を開けて着ると、それらがなびくのです。さすがな一着であります。
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Text:Tomoki Sukezane
Illustration:Sara Guindon
Photos:Hisashi Ogawa

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