2021.11.30

祐真朋樹の密かな買い物 Vol.90 こだわりのディテール|2021年12月号

今も昔も、服を着る愉しみが生活の基本にある。そして最近は、服を作る機会にも恵まれている。すると今まで当然だと思っていたディテールが、実は手間のかかる技だということがわかった。昔は当たり前だったことが、簡略化されていく。放っておくと技術は継承されずに消えてしまう。作り手としては、そのような事態は避けたい。価値ある技を、次の世代へ継承したい。

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これまで長い間、出来上がっている服を素敵に見せる仕事をしてきた。スタイリングを考えるのはもちろんだが、誰に着てもらうかを考え、着る人のリクエストに応え、多くのデザイナーにインタビューをし、時には写真を撮り、映像のストーリーもつくった。また、撮影にあたっては、背景を決めたり、プロップを工夫したり、時には撮影チームの食事をどうするかまで考え、レイアウトを提案し、原稿を書く。編集&スタイリングの仕事はキリがない。なぜ、そこまでするのかというと、そうすることが真の情報発信になり、何か新しい価値を生み出すと信じているからだ。だが、この30年、なぜか服を「作る」ことに真剣勝負で参加する機会がなかった。それがここ数年、服作りに参加する機会が増えてうれしく思っている。これまでの編集&スタイリングの仕事、そして長い間いろいろな服を買って着ることを繰り返してきた経験を服作りに生かせるのは、僕にとって大きな喜びとなっている。

僕の場合、服を作り始めるときは、まず、これまで着てきた服の膨大なストックを眺めることから始める。約35年分の資料は、新しい服作りの大きな参考になる。先日、某誌で“古くて懐かしいものの復活”というテーマで私物の撮影をした。流行は年月を経て、少しだけ何かが変わり、また繰り返す。ファッションに限らず、ほかの分野にもこのセオリーは当てはまりそうだ。

今回僕が紹介したい服は、タブカラーのクラシックシャツと、純白のタートルネックセーター、そしてグレーの霜降りTシャツだ(僕が着ている下記写真参照)。どれも僕にとってのレギュラーアイテムなのだが、作る側になってみると、今までは当たり前だと思っていたディテールがそのかたちになるまでの工程が、全然当たり前ではないということを知った。例えば霜降りのTシャツ。僕としては、当然のごとく胴部分は筒状だと思っていたが、最近はそれを作る吊り編み機そのものが稀少になっているらしい。純白のタートルネックは、ハイゲージニットのように仕上げたいので、コットンの糸を三本取りで度詰めに編んでもらった。これもまた面倒な作業なので、今やあまりやっていない編み方らしい。タブカラーのシャツは、銀座の老舗、大和屋シャツと作った〈MH〉の一品。僕は過去2回、大和屋シャツでオーダーメイドしたことがあり、その丁寧な物づくりに感銘を受けて今回のコラボレーションとなった。今回は、洗いジワをきかせた着こなしができるような生地選びにこだわった。タブ部分のボタンとカフボタンを同じものにしたのは、ラフに着たいシャツだがどこかにドレスな雰囲気を出したかったから。どのアイテムにもこだわりのディテールがあるからこそ、永遠の魅力が備わると僕は思っている。単にパッと見た目がいいだけでは、すぐに飽きて次が欲しくなるのではないだろうか。

イラストで着ているコートは、この秋から僕がクリエイティブディレクターを務めるランバン コレクションメンズのダッフルコートだ。フロントにトグルボタンは使わず、比翼にしてシンプルな表情。素材とフードはクラシックで重厚な形状にこだわった。生地が厚いが、腕を動かしやすくするため、スキーウェアなどに使われるアクティブスリーブをアレンジした作りにした。濃紺のコートの首元には、上述の純白のタートルネックを見せたいと思った。作り手がもつ技を存分に生かし、着る人が快適で、かつ誇らしい気持ちになる服を作っていきたいと思う。

(左)タブカラーのシャツはMHのもの。銀座の大和屋シャツとのコラボです。シワシワで、でも、上までボタンを留めて着る、を推します。(中)純白にこだわったタートルネックトップはランバン コレクションのもの。ネックの高さにも注目してください。100%コットン素材。(右)霜降りTシャツはヤンチェ_オンテンバールのもの。身頃は縫い目がない丸胴仕様。着ていくうちに、若干斜行していくところも気に入っています。
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Text:Tomoki Sukezane
Illustration:Sara Guindon
Photos:Hisashi Ogawa

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