2021.06.11

祐真朋樹の密かな買い物 Vol.85 コム デ ギャルソンの安全ピン|2021年6月号掲載

金色の安全ピン、黒いシルクスカーフ、そしてオリーブ色のホーズが最近の僕の三種の神器。何とはなしに買い置きしていたものが、突然、ある瞬間からキラキラと輝きだすことがある。そんな小物にスポットライトを当ててみた。地味な存在だが、滋味に富む魅力をもつ小物。それは、すぐそばで僕を密かに見守ってくれて、「サザエさん」的安心感をもたらしてくれる。

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今から10年以上前の日曜日の夕方、息子と「サザエさん」を見ていたら、それまで経験したことのない安心感に包まれた。子どもの頃に見ていた「サザエさん」は僕には退屈で、はやく19時になってプロ野球中継にならないかと思っていた。大人になってからも、新聞のテレビ欄でそのタイトルを目にすると「まだやってるんだ…」と半ばあきれていた気がする。が、そのときは違った。8歳くらいだった息子と、物語について特段話をするわけでもなく、ただ二人でテレビを見ていた。そしてキッチンからは彼女が料理する音が聞こえていた…。そのとき僕は、それまでの人生で得たことのない安心感と幸福感に包まれたのである。以来、日曜日の夕方に「サザエさん」をのんびり見られるときは、たとえ一人であっても、その時間がとてつもなく贅沢だと思えるようになった。

「サザエさん」は昨年、なんとテレビ放映51年を迎え、ギネス記録を打ち立てたそうだ。サザエ、マスオ、カツオ、ワカメ、タラオ、波平、そしてフネ。みんな、僕が子どもの頃と変わらずに元気だ。年月を経ても誰一人として亡くならず、年もとらずにいる。「サザエさん」には、心底意地悪な人も、孤独のどん底にいる人も出てこない。もちろんSNSもない。そこにあるのは、日本人が理想としてきた良心や良識、そして包容力を体現する人や事象ばかりだ。あのアニメを心安らかな気持ちで見られるのはそのためだと思う。今や23歳になって札幌で一人暮らしをしている息子は、「テレビも車の免許も要らない」という“今どきの青年”になった。つまり、日曜日の夕方に「サザエさん」を見て感傷に浸るようなことはない。でも父は、あのアニメが発信する、普遍的な魅力やモラルが通用する社会であってほしいと心から思っている。

さて、そんな「サザエさん」のごとく、“人からは見過ごされそうだけどないと困る”という僕のファッションアイテムをご紹介したい。まずはここ数年、ジャケットやコートのボタンホールに何となくつけている金色の安全ピン。これは7~8年前に、コム デ ギャルソンの青山店で何回かに分けて買った。当時は用途も決めずに衝動買いしたのだが、今はつけていないと落ち着かない。パンツのベルトループにもつけたりしている。あくまで飾りなので、無駄といえば無駄だけど、すごくファッショナブルな気持ちにさせてくれる。そこが好き。黒いシルクのスカーフは、トッズのディエゴ・デッラ・ヴァッレ会長から頂いた。あるパーティで彼がつけていたのを見て「すごくいいですね」と褒めたら、後日贈ってくれたのだ。一見何でもないが、質感、サイズともに素晴らしい仕上がりで、最高にエレガントな逸品。最近は黒いフーディと合わせてカジュアルなルックで使っている。そしてタビオのホーズは、踵から足裏全体と指を覆う部分が綿パイルで、ほかの部分がシルク。色の出具合や艶が素晴らしい。特に重宝しているのは深いオリーブグリーンのもの。最近はスラックス×レザースニーカーが基本で、以前はコットンリブソックスと迷うこともあったが、このホーズにしてからはリブなしがベストだと確信した。

3つとも小さくて地味な存在だけど、首、足元、ボタンホール、ベルトループとさりげなく目につくところなので、とても大事に思っているのであります。




(左)トッズの箱に入って送られてきたのだが、スカーフにはブランドの織りネームはついておらず「SILK 100%」と「MADE IN ITALY」と刺繡されたタグのみ。それも素敵。(中)これよりひと回り大きいサイズのものもいくつか持っています。金色の輝き具合に品があって好きです。つけるのは一つと心がけています。(右)リブなしのシルクホーズ。スラックスの裾がまとわりつかない。長持ちはしないが、靴下は美しいものをはいていたい。
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Text:Tomoki Sukezane
Illustration:Sara Guindon
Photos:Hisashi Ogawa

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