2023.08.01

【宮藤官九郎×池松壮亮が初タッグ】「大人計画に入る前からいつか映像化したいと思ってた」ドラマ『季節のない街』対談

宮藤官九郎さんにとって『TOO YOUNG TO DIE! 若くして死ぬ』以来の監督作となるドラマ『季節のない街』が8月9日よりディズニープラスで配信される。本作は、宮藤さんが大好きな黒澤明監督作映画『どですかでん』の原作である山本周五郎の同名小説の映像化であり、みずから「いちばんやりたかった企画」と言うほど思い入れたっぷり。はたしてどんな作品になったのか? 企画・監督・脚本を手がけた宮藤さんと、主人公の半助を演じた池松壮亮さんによるスペシャルなクロストークをお届け!

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池松くん、出てくれないかな?

――本作は、宮藤さんが長年温めてきた企画とのことですが、どういう経緯でスタートしたのですか?

宮藤 僕、もともと映画『どですかでん』(監督:黒澤明)の大ファンで、『どですかでん』を観て、山本周五郎の原作小説(「季節のない街」)を読んで、その直後に大人計画に入ったので、人生の大きな転機に出会った作品なんです。大河(「いだてん〜東京オリムピック噺〜」)が終わったくらいのときに、うちの社長と次にやりたいことを話す機会があって、そこで「これ、連続ドラマにならないですかね」という話をしたんです。そもそも原作は短編集なので、映画より連続ドラマのほうが向いているんだよなと思っていて、原作の中の「半助と猫」という話が大好きなんですけど、そのエピソードがなぜか黒澤監督の『どですかでん』には出てこなくて。それで、「半助と猫」の半助と、「親おもい」のタツヤと、「がんもどき」のオカベの3人の若者の話にすることになったとき、半助は誰がいいだろうと考えて、「池松くん、出てくれないかな?」と思って聞いてもらったら、何か出てくれるっぽいですよと(笑)。

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池松 もう迷うような話じゃありませんでした。宮藤さんとはこれまで作品を共にすることがなかったので、お話をいただいたときは自分でいいのかなと思いました。とにかく脚本がすこぶる面白くて、その中でも半助というのは、いわばこの物語のガイド役なので、半助が「この街をどう面白がっていくか」「この街の人たちをどうとらえていくか」によって、物語の色とか物語そのものが決まってくるような重要な存在でした。言ってしまえばこの作品における半助は、『どですかでん』が大好きな宮藤さんご自身が物語に入り込んで、街の住人たちを見つめるような役。それを初めての宮藤作品で僕にと言ってくれたのはもうただただ光栄で。そもそも宮藤さんからオファーされて断る人はなかなかいないですよね(笑)? 宮藤 そんなことないです。今、池松くんからガイドという言葉が出ましたけど、“観察者”の目線で、「この街の人たち、みんなヘンだよ」ということを教えてくれる人がいたらいいなと思っていたんです。黒澤版はいないですよね。 池松 いないですね。 宮藤 池松くんが出ている作品を観ていると、何かをすごく抱えているんだけれども、表面的にはわりと涼しい感じというか、フラットな感じで、それでいて最後に感情が爆発するという、そんな役が似合う。観ていてスカッとするんです。何かを抱えているのに軽いし、何かこう平然としているみたいな感じがいいんですよね。原作の半助は猫としかコミュニケーションできない人なので、その点では原作とは変わっちゃいましたけど、池松くん演じる半助が街のヘンな人たちを見る視線があることで作品の見え方も全然違ってきて、結果、俺の好きな『どですかでん』もできるし、連続ドラマにもなるし、今さらながらいいキャスティングでした(笑)。
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サウナに入ると荒川さんがいたり、水風呂に入ると宮藤さんが隣にいたり

――宮藤さんの作品はいつもそうですが、今回も俳優陣の掛け合いが面白かったです。現場はどんな感じでしたか?

宮藤 寒かったですよね。とにかく寒くて、茨城県の行方市の廃校に仮設住宅を建てて、約2か月撮っていたんですけど、事前に市長からは「絶対に雪は降らないし、東京よりちょっと寒いだけです」と言われたんです。でも、全然そんなことなくて(笑)。毎日寒くて。半助は半ズボンの設定にしちゃったから、本番で池松くんの半ズボンになる姿を見るたびに本当に申し訳ないなと思ってました。ただ、僕自身がわりといっぱいいっぱいで、目の前で起こっていることをとにかく撮り逃さないようにすることしか考えてなかったから、覚えているのは寒かったというのと、あとは何かずっと笑っていたなということですかね。池松くんも本番中に笑ってるんですよ。けど、これは半助も笑うだろう、という理由でOKにしちゃってます(笑)。

――特にどのシーンで笑ったか覚えていますか?

宮藤 4話で荒川(良々)くんがただただ酔っ払っているだけのシーンがあって。

池松 あれはおかしかったです。僕、荒川さんには弱いんです(笑)。

宮藤 撮っている時間が夜遅かったんです。寒くて疲れているから、みんな笑っちゃってるけど、「しょうがないよ、笑っちゃうこともあるよ」という感じで。贅沢にもオープンセットを作ったから、本当に役者さんがその街の住人になったような感じで現場に居てくださって、撮影が終わったら帰っていくという形で、こっちは待っているだけでした。何か最高の現場でしたね。

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――終始楽しい現場だったんですね。 池松 宮藤さんがまたよく笑ってくれるんです。げらげら笑いながら面白がってくれて、本当にこの街の人がおかしいんだ、楽しいんだという空気をつくってくれたので、宮藤さんがいないとき、ちょっと大変だったんですよ。「えっ、あんま誰も笑ってないけど?」って(笑)。 宮藤 ごめんなさい。得てしてそうなるんです。 池松 宮藤さんとのエピソードでいうと、撮影期間中は土浦というところで暮らしていたので、近くのお風呂屋さんのサウナに入ると荒川さんがいたり、水風呂に入ると宮藤さんが隣にいたり、けっこうよく遭遇していたんです。しかも、ホテルの部屋が向かい同士で。 宮藤 そうそう(笑)。 池松 お互いドアを開けた瞬間がまったく同じタイミングのときがあって、笑いましたね。まるで本当にみんなでお隣どうしひとつの街で暮らしているような2か月ちょっとでした。そのことがこの作品をひとつ特別なものにしたんだと思います。 宮藤 うん。撮影が終わって、「ああ疲れた。大きいお風呂入りたいわ」と思って行くと、荒川くんがいて、皆川(猿時)くんがいて、池松くんもいて、太賀くんもいてみたいな。「せっかく終わったのに、こんなところでも会って申し訳ないね」なんて言って。撮影している時期はそんな感じでしたね。


こういう作品に関わることができたのは俳優として何よりも幸せ

――お二人は今回初めて仕事でタッグを組んだわけですが、撮影を終えてそれぞれ相手に対して思ったことや感じたことを教えてください。

宮藤 池松くん、すごいんですよ。さっきも言いましたけど、フラットに「この物語の世界の住人はヘンな人たちだよね」というのを半助のリアクションで見せていかなきゃいけないので、そのチャンネル合わせというか、調整がもしかしたら必要かなと思っていたんですね。けど、最初の六ちゃん(濱田岳)のシーンを撮っているときから、「ああ、全然必要ないな」って思いました。何も言ってないのに、その世界に当たり前のようにいるんですよ。本当に佇まいが自然で、「余計なことを言って変わったらイヤだな」と思ったから、何も言いませんでした。最初から「半助ってそうだよな」という感じで、あれはすごく全体のことを考えているか、何も考えてないかどっちかですね(笑)。

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池松 何も考えていません(笑)。脚本が素晴らしいですから。誰がやっても面白いですよ。それは間違いないです。その中で自分なりのチューニングというか、自分の感性を使って、山本周五郎のヒューマニズムと宮藤さんのヒューマニズムにどう反応していくのか、瞬間、瞬間にいろいろな選択をしながら楽しくやらせてもらいました。贅沢な時間でした。
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――完成した作品を観て、「こんなふうになったんだ」みたいなところはありましたか? 池松 けっこう現場にいたので把握している部分もあるし、想定していた部分もあるけれども、あらためて完成したものを観ると、本当にいい企画だし、みごとに面白い物語になっていると思いました。全編を通して、簡単ではない情愛とユーモアとラジカルさがあって、それぞれのキャラクターの持ち味が存分に生きている。これを映像にできるのは宮藤さんしかいないだろうし、宮藤さんの『季節のない街』になったなと思います。この作品に関わることができたのは俳優としてとても幸せなことで、面白いものづくりに参加させてもらえて本当によかったなとホクホクしています。 ――この記事の写真撮影では、ドラマの中で半助の愛猫を演じたトラちゃんにも登場してもらいました。トラちゃんはわりと重要な役どころですけど、撮影は順調だったんですか? 池松 超優秀でした。さすが売れっ子です。 宮藤 最後のリュックのあれはさすがにストレスだったのか、オシッコもらしちゃったんですよね。 池松 そうなんですよ。オシッコされました(笑)。 宮藤 でも、猫って本当に大変って聞いていたけど、トラは本当に優秀でしたよ。久しぶりに会ったけど、池松くんのことは覚えてる感じだよね。抱っこしていても自然というか。俺が抱っこしたら全然ダメで、毛だけを残して去っていきました。 池松 売れっ子だから僕のことも覚えてないと思いますよ(笑)。
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ちょっともうこれ以上のことがあるのかな

――宮藤さんは、プレスリリースの中で「これを世に出したら、自分の第二章が始まる」といった内容のコメントをしています。これはどういう意味なんですか?

宮藤 それを言ったらちゃんと宣伝してくれるかなと思って(笑)。

――そういうことですか(笑)。

宮藤 本当にずっとやりたかった企画ですし、飲み会とかで「今、『用心棒』をやるんだったら、仲代の役はあの人だよね」とか「もし『七人の侍』をやるんだったら、誰を選ぶ?」みたいなことを映画関係者が話したりする、その感じで「今、『どですかでん』をやるんだったら、あの役は誰かな?」みたいなことをずっと考えていたんですよ。それぐらい自分の好きな世界だったので。それで、最初に(濱田)岳くんの六ちゃんを見たとき、池松くんが「やばい、まんまじゃないですか」って言ってくれて。

池松 本物でしたね。感動しました。

宮藤 あれはすごくうれしかった。「そうでしょ!」って。もう最初から六ちゃんは岳くんって決めていたから、同じように思ってくれていたんだなって。そこは共通の盛り上がりがありましたね。ほかにも、荒川くんと増子(直純)さんとか、藤井(隆)さんもそうだし、又吉(直樹)さんもそう。妄想していたキャスティングが全部できたので、「ちょっともうこれ以上のことがあるのかな」って思っているのは本当です(笑)。

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今度は『狂い咲きサンダーロード』のリメイクをやりたい

――ちょっと気の早い話ですが、例えばお二人が次にまたタッグを組んだとして、新たに池松さんにやってもらいたい役というのは何かありますか?

宮藤 えー、何だろう。池松くんにも言いましたけど、『シン・仮面ライダー』の庵野(秀明)さんのドキュメンタリーを観たら、クランクアップのシーンの日付が2023年って書いてあって、ということは『季節のない街』の間に撮ってたんだと思って、本当に申し訳ないことしたなって。全然違う世界観ですからね。そうだなあ、どんな映画でもリメイクさせてくれるということなら、『狂い咲きサンダーロード』をやりたいです。『狂い咲きサンダーロード』の山田辰夫さんの役を池松くんにやってもらいたいかな。あの役は俺にとっての仮面ライダーですから(笑)。

池松 それはぜひ(笑)。こんな役をいただいたばかりですから、まだ全然そんなこと考えられないですけど、宮藤さんも言っていたように今回の『季節のない街』はすごく大きな作品だったと思うんですね。大河の後に何をやるかと考えて、原点に戻ったというか、自分の元あった場所に立ち返った気がするんです。それこそスピルバーグにとっての『フェイブルマンズ』とか、庵野さんにとっての『シン・仮面ライダー』と同じような意味合いで、宮藤さんにとってはそれが『季節のない街』なのかなと感じていて。

――なるほど。

池松 そういう意味で、きっと終わりの始まりの作品だし、そうした作品に関わることができたことが光栄です。もしこのあとがあるんだとしたら、それはもう喜んで飛んでいきます。今回、宮藤さんのモノづくりに触れてとても感動しましたし、自分にとって心地のいいものを感じました。『季節のない街』は群像劇で、段取りとかでもテストでけっこうな人数が一堂に会してそれぞれ好き勝手にお芝居するんですね。それを一発で見抜いて、すべてのタイミングとすべての人の演出をパパパッとやっていくんですよ。たくさんの監督に会ってきましたけど、すごかったですね。感動しました。

宮藤 そんなこと言われたら意識しちゃうって(笑)。もうできなくなっちゃうかもしれない。

池松 監督として、脚本家として、俳優として、あらゆる視点からものづくりを見てきたからなのか、宮藤さんの現場力はすごかったですね。現場の士気がどんどん上がっていって、スタッフやキャストがみんな物語に没入していくような感覚がありました。2カ月半も撮影していると、だいたいみんな汚くなっていくんですけど、心は豊かになりました。とても特別な現場でした。

宮藤 どうしよう。何かありがとうございます(笑)。


PROFILE

宮藤官九郎 Kankuro Kudo

1970年宮城県生まれ。’91年より大人計画に参加。映画『GO』(2001年)で第25回日本アカデミー賞最優秀脚本賞を受賞。以降も、ドラマ「木更津キャッツアイ」「あまちゃん」「いだてん〜東京オリムピック噺〜」など、話題作の脚本を手がける。’05年、『真夜中の弥次さん喜多さん』で長編映画監督デビューし、新藤兼人賞金賞を受賞。俳優としても数々の作品に出演する。待機作に、映画『こんにちは、母さん』(出演/9月1日公開)、映画『ゆとりですがなにか インターナショナル』(脚本/10月13日公開)などがある。


池松壮亮 Sosuke Ikematsu

1990年福岡県生まれ。2003年、『ラスト サムライ』で映画デビュー。以降、映画を中心に数多くの作品に出演し、多数の映画賞を受賞。近年は海外作品にも出演し、幅広く活躍している。主な出演作は、『夜空はいつでも最高密度の青色だ』(’17)、『斬、』(’18)、『宮本から君へ』(’19)、『アジアの天使』(’21)、『ちょっと思い出しただけ』(’22)、『シン・仮面ライダー』(’23年)など。待機作に、『白鍵と黒鍵の間に』(10月6日公開予定)、『愛にイナズマ』(10月27日公開予定)がある。


Photos:Kanta Matsubayashi
Movie Director:Taro Usuda
Videographer:Satoki Nakazono
Hair & Make-up:Megumi Kitagawa[kurarasystem](for Mr.Kudo)
Stylist:Chiyo[CORAZON](for Mr.Kudo) FUJIU MINI(for Mr.Ikematsu)
Interview & Text:Masayuki Sawada


作品紹介

『季節のない街』

ディズニープラス「スター」で、8月9日(水)より全10話一挙独占配信!

企画・監督・脚本:宮藤官九郎
音楽:大友良英
撮影:近藤龍人
美術:三ツ松けいこ
衣装:伊賀大介、立花文乃

出演:池松壮亮、仲野太賀、渡辺大知、三浦透子、濱田岳、増子直純、荒川良々、MEGUMI、高橋メアリージュンほか


STORY
山本周五郎の傑作小説「季節のない街」をベースに、本作では舞台となる「街」を12年前に起きた“ナニ”の災害を経て建てられた仮設住宅のある「街」へ置き換え、現代の物語として再構築。希望を失いこの「街」にやってきた主人公の半助(池松壮亮)が、タツヤ(仲野太賀)やオカベ(渡辺大知)をはじめとする「街」の住人や関係者たちの生きる姿に希望を見つけ、人生を再生していく青春群像エンターテイメントとして描く。


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