2025.06.27
最終更新日:2025.06.27

『Testing』|エイサップ・ロッキー 女性ビリオネアのイケメン夫【超初心者のためのHIPHOP STARTUP|長谷川町蔵】

「ヒップホップとは」を長谷川町蔵さんが初心者にもわかりやすく解説する。

『Testing』エイサップ・ロッキー

『Testing』エイサップ・ロッキー

エイサップ・ロッキー 女性ビリオネアのイケメン夫

 今でこそ犬猿の仲となってしまったケンドリック・ラマーとドレイクだが、若手時代の2012年にはヒットシングル「F**kin’ Problems」で共演していたりする。疾走感あふれるこの曲で主役を張っていたのが、ニューヨーク出身のエイサップ・ロッキーだった。クールな魅力で二人にも引けをとらない人気を誇っていた彼だが、2018年に発表したアルバム『Testing』を最後に、新作をリリースしていない。

 その理由は──彼がイケメンすぎて、オシャレすぎたからだ。シュッとしたルックスとシックなファッションセンスを買われたロッキーは、やがてファッションショーの常連に。ラフ・シモンズとは大親友となり(「Raf」というタイトルのシングルを発表したことも)、グッチやボッテガ・ヴェネタのキャンペーンにも登場。もともと「かっこいい」と言われたくてラップを始めたであろう彼は、こうした扱いによって内面が満たされてしまったのか、次第に音楽制作に本気で取り組まなくなった。

 さらに彼の前に“運命の女”が現れる。コスメブランド「Fenty Beauty」を立ち上げ、アイドルシンガーからファッション界のビリオネアに転身していたリアーナだ。ファッションへの愛で強く結ばれた二人の間には、2022年と’23年に男児が誕生。ビジネスで多忙な彼女に代わって育児もこなすロッキーは、「嫁の稼ぎで暮らして恥ずかしい」なんて古くさい意識もゼロ。ますますラップしなくなってしまったのだった。長らく録音を続けていたニューアルバム『Don’t Be Dumb』を今年の夏には出したいと言っているものの、本当にリリースされるかは怪しいところ。しかも俳優としてデンゼル・ワシントンと共演したスパイク・リー監督作『Highest 2 Lowest』も公開決定。黒澤明『天国と地獄』のリメイク作でもあるこの映画をきっかけに、ハリウッドでも引っ張りだこになる可能性大。ますます音楽の世界から遠ざかってしまいそうだ。

 とはいえ、ロッキーがケンドリックやドレイクに負けない才能をもつラッパーであることは間違いない。だからこそ、気長に彼の最前線復帰を待ちたいと思う。

長谷川町蔵

文筆家。とてもわかりやすいと巷で評判の、大和田俊之氏との共著『文化系のためのヒップホップ入門1〜3』(アルテスパブリッシング)が絶賛発売中。

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