2025.07.25
最終更新日:2025.07.25

『Piece By Piece』ファレル・ウィリアムス |音楽とファッションの二刀流天才【超初心者のためのHIPHOP STARTUP|長谷川町蔵】

「ヒップホップとは」を長谷川町蔵さんが初心者にもわかりやすく解説する。

『Piece By Piece』ファレル・ウィリアムス

『Piece By Piece』ファレル・ウィリアムス
SONY MUSIC

ファレル・ウイリアムス 音楽とファッションの二刀流天才

 クイーンのフレディ・マーキュリーの生涯を描いた『ボヘミアン・ラプソディ』や、ボブ・ディランのロック転向を扱った『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』を観ればわかるように、ミュージシャンの伝記映画は「いかに本人に似せるか」が優劣の基準になりがちだ。そういった意味では、ヒップホップ〜R&B界のスーパー・プロデューサー、ファレル・ウィリアムスが自身の半生を振り返った『ファレル・ウィリアムス:ピース・バイ・ピース』は破天荒な伝記映画といえる。何しろ、ファレル本人をはじめ、プロダクション・チーム「ネプチューンズ」の相方チャド・ヒューゴや、二人がプロデュースしたスヌープ・ドッグ、ケンドリック・ラマー、グウェン・ステファニーといったスターたちも、すべてレゴで登場するのだから(正確にいうと、インタビュー映像やミュージックビデオをレゴ・モチーフのCGアニメーションで再現している)。一体なぜ、こんな表現スタイルを選んだのだろうか?

 もちろん、現在も第一線で活躍し、50代とは思えない若々しいルックスをもつファレルを、若い俳優がモノマネのように演じたところで、リアリティに欠けてしまうという事情もあるかもしれない。しかしそれ以上に、ファレル自身が「レゴ」というツールに魅了された可能性が大きいはずだ。

 映画では、彼がヒット曲を生み出すプロセスが、さまざまな色や形のレゴを組み合わせる作業として描かれている。これは単なるメタファーではなく、彼が実際に音楽をそんなふうに視覚的にとらえていることの証しなのかもしれない。そう考えると、ファッションの世界からは縁遠いアメリカのヴァージニア州に生まれ育ち、当初はラッパーとしてキャリアをスタートさせたはずの彼が、現在では老舗メゾン、ルイ・ヴィトンのメンズクリエイティブディレクターに就任しファッションデザイナーとしての名声も博している理由が見えてくる。

 そう、ファレル・ウィリアムスという表現者にとっては、音も色も質感も、すべては自由に組み替えられるレゴのような“ピース”なのだ。

長谷川町蔵

文筆家。とてもわかりやすいと巷で評判の、大和田俊之氏との共著『文化系のためのヒップホップ入門1〜3』(アルテスパブリッシング)が絶賛発売中。

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