『ロダンのココロ これくしょん』
皆に愛された「ロダン」の
8コマ漫画を再び手に取ってみる
ラブラドール・レトリバーという種類の犬を主人公にした哲学漫画『ロダンのココロ』が「朝日新聞」や「週刊朝日」に連載されていたのは、1996年から2002年まで。その後もスタイルを変えたスピンオフ的な作品が各メディアで発表されてはいるものの、若者はその存在をまったく知らない可能性があります。実際、電子書籍版は現在も発売中ですが、紙の本は新品を買うことができない状態でした。
原宿のギャラリー「装丁夜話」で先日、この名作を復刊させる企画展示が開催されたので行ってきました。これまでの「ロダン」作品の中から200作以上を集め、新作も加えて一冊にまとめた『ロダンのココロ これくしょん』。五十嵐徹、内田優花、大滝奈緒子、折原カズヒロ、関田淑恵、近田火日輝、長谷部貴志、山内雅貴⋯⋯8名のブックデザイナーが各自つくった、8種類の限定カバーをまとった本書は今も、通販で購入することができます。
正直、高い。本は発行部数が少ないほど一冊あたりの価格が高くなってしまうから(服も同じですね)。そのかわりレアな服と同じくらい、それぞれのデザインが凝っています。電子書籍版を気軽に読むのもいいですけれど、たとえばコーラルピンクのふわふわのファーをまとった装丁(近田火日輝デザイン)を、部屋のインテリアとして置いてみてはいかが。
この「ロダン」作品の画期的なところは、いわゆる擬人化された犬ではない、本物の犬の「ココロ」をうつしとったかのような謎のリアリティがある点です。もちろん本物の犬が人間のように考えるわけはないのですが、眉間にシワを寄せたラブラドール・レトリバーの姿は、本当に何かを考え、悩んだり納得したりしているのではと錯覚させてくれます。
ひなまつりの階段状になった人形飾りをながめてロダンは思います。段差がありすぎて人形たちは階段をおりられないのでは⋯⋯と。
それはいわゆる「誤解」ではあるのですが、犬であるロダンにはそのように世界が見えてしまうのか⋯⋯という発見が心地よく、「世界にはこのようなコミュニケーションのズレがたくさんあるのだろう」と考えさせられます。
それがけっして不快な齟齬にはならず、ズレはズレのまま放置されるのに、可笑しくて少しせつない世界の細部、のように感じられるのがたまらない。愛おしい漫画なのです。
一話一話はとても短いし、どこから読み始めても、どこで読み終えても大丈夫です。トイレに一冊置くというのもいいかもしれません。
『ロダンのココロ これくしょん』
内田かずひろ/デザイン&ギャラリー装丁夜話
「朝日新聞」「週刊朝日」にて1996年から2002年に連載された8コマ漫画。厳選作品をまとめた待望の一冊がクラウドファンディングで待望の復刻。
歌人。『毎日のように手紙は来るけれどあなた以外の人からである 枡野浩一全短歌集』(現在11刷)、漫画紹介本『漫画嫌い』(絶版)など、著書多数。タイタン所属。