『ゲットバック』
冴えない男子高校生が織りなす
「マンガ家マンガ」最新作!
「マンガ家マンガにハズレなし」と言ったのは「マンガ解説者」の南信長氏です。たしかにマンガ家がマンガ家を題材に描いたマンガはもれなく面白い。『バクマン。』『重版出来!』『Stand by me 描クえもん』『これ描いて死ね』そして『ルックバック』⋯⋯いくらでも傑作を挙げられます。
その『ルックバック』にタイトルが似ている『ゲットバック』。なぜ似ているのかは、作者の古泉智浩氏が「あとがき」で明かしています。(どうか読者の皆さんは本作を読む前に「あとがき」を読まないでください! 切実で心が釘付けになる「あとがき」なのですが、重大なネタバレを含んでいます!)
二人の男子高校生(片方は引きこもり)が、力を合わせて描いたマンガでデビューする⋯⋯というのが大筋の物語です。どこかで聞いたような設定であり、当初はパロディマンガとして構想されたのかもしれません。が、完成作を読むと、直球の大傑作。なぜ今までこの切り口の作品がこの世になかったのか、と思うほど発明的な仕掛けがあります。物語に普遍性があるあまり、いろいろな名作映画も連想してしまいました。男子二人の話である点から『キッズ・リターン』も思い浮かぶし、主人公の言動から『タクシードライバー』も脳裏をよぎります。全然似ていないようで『花束みたいな恋をした』と構造が近い気もします。その上で、どの作品にもない独自性がある。ひとつだけ挙げておきますが、生きていく上で必要不可欠な「お金」の問題から目をそらさず、むしろそれを話の真ん中に据えている点がユニークです。
終盤、二人の男子は映画館で偶然再会します。一人はアニメ映画化された『ルックバック』を、もう一人は妻や子と『ドラえもん』を見るために映画館にきたのです。なんという残酷な、二人の距離。ひとつひとつの仕掛けがよく出来すぎていると、ともすれば噓くさい物語になってしまうのですが、ちょっとした会話の一語一語に現実味があり、しらける瞬間がありません。本稿を書くために再読して今、涙を流したばかりです。
古泉智浩氏と僕は、Podcast番組「本と雑談ラジオ」を10年以上続けています。親しいマンガ家の新作だからほめたのだろうと思われてしまうかもしれないですが話は逆。氏の才能に魅了されてやまないから、10年もおしゃべりを続けていられるのです。その「本と雑談ラジオ」でも本作について語っていますので、作品を読んだあとに、聞いてやってください。
『ゲットバック』
古泉智浩/文藝春秋
『ジンバルロック』『ワイルド・ナイツ』で知られる作者の最新作。底辺高校に通う二人が目指すマンガ道ストーリーは思いがけないラストに……!?
歌人。『毎日のように手紙は来るけれどあなた以外の人からである 枡野浩一全短歌集』(現在11刷)、漫画紹介本『漫画嫌い』(絶版)など、著書多数。タイタン所属。