『岡田索雲短編集 アンチマン』
全53ページで心を摑まれる短編集の表題作
歌人(五七五七七の短歌をつくる専門家)で、あまり長くない漫画を読むのが好きな、枡野浩一と申します。この欄では基本、単行本1〜3冊くらいで完結している、すぐ読み終えて長く心に残るマンガを紹介していきたいです。
マンガ家の古泉智浩さんと僕で「本と雑談ラジオ」という、好きな本を紹介しつつ雑談をするPodcastを始めて、今年12月で丸10年になります。それほどの人気番組ではないけれど、芸人コンビ「しずる」の池田一真さんが愛聴者とのことで、僕の一押しマンガ家、岡田索雲氏を気にいってくれたそうなのが自慢です。氏は名作『メイコの遊び場』など独自すぎるマンガをいくつも描いてきたキャリアの長いマンガ家なんですが、どういうわけか連載がいつも打ち切りっぽく終わってしまう不遇の鬼才。「もうすぐ44歳、無職」の主人公がダメな仲間たちと反社会的な行動を始める連載『ザ・バックラッシャー』の第1巻が発売されたばかりで、こちらも第1話から「マンガで見たことのない不穏さ」に満ちていて目が離せませんが、僕のおすすめは同時発売の『岡田索雲短編集 アンチマン』。
表題作は映画『タクシードライバー』の現代版と呼ぶべき物語展開なのですが、その事実に最初は思い当たらなかったくらい主人公が「できれば関わりたくないタイプ」の中年男。ファッション誌読者の男前なあなたにとって、共感する要素がゼロだったらすみません。短編ひとつひとつ、どの主人公も、自分とは似ていないはずなのですけれど、「こんな暗い部分が自分にもあるのかもしれない」と感じてしまいそうな絶妙さで描かれています。そして、「こう展開するかな?」という予想は、まるで当たりません。読み終えて気持ちがスッキリするようなこともないです。「あれは何だったんだろう⋯⋯」と、ずっとモヤモヤします。口当たりも、あと味も、悪い。これから収録する「本と雑談ラジオ」で本作を課題本に選んでいるのですが、マンガ家の古泉さんがどのような感想を持つかも想像できません。こう書いていると、「もしかして、つまらないマンガなのではないか」という気さえしてきますし、あとがき的に作品ごとに添えられた作者の自筆コメントも心がぐんにゃりするような不思議な角度のものばかりなのですが、「だまされたと思って読んで感想を聞かせてほしい」と、こんなに感じる作は滅多にありません。孤立無援な一冊であることは確かです。絵にも執念深さがあり、狂おしい世界が正確に伝わります。
『岡田索雲短編集 アンチマン』
岡田索雲/双葉社
webアクションで40万PVを獲得しSNSで大きく話題となった表題作「アンチマン」ほか、岡田索雲の単行本未収録読み切りを収めた短編集。
歌人。『毎日のように手紙は来るけれどあなた以外の人からである 枡野浩一全短歌集』(現在11刷)、漫画紹介本『漫画嫌い』(絶版)など、著書多数。タイタン所属。