数ある漫画の中から実写にしてほしい作品を、マンガ解説者の南 信長氏が紹介する。
『バッドベイビーは泣かない』

7年前のとある出来事でつながった
4人の大人と一人の少女の狂騒曲!
カフェのトイレで妊娠検査薬の判定が陰性なのを確認して神に感謝する間戸かすみ(28)、彼女が会社帰りに立ち寄った高級マンションに住む佐津川和歌(41)、7年ぶりに連絡が来て合流した木目田天(34)、そして3人の共通の知り合いらしい堂島直(33)。年齢も属性も異なる4人がいきなり出てきて、誰が何やら人間関係が把握できず最初は戸惑うかもしれない。が、その時点ですでにあなたは作者の術中にハマっている。行先不明、途中下車不能のジェットコースタードラマの始まりだ。
実はこの4人、7年前に早朝の駅のホームから少女が転落した現場にたまたま居合わせ救助して感謝状をもらったという縁があった。最初に速攻で線路に飛び降りたのが堂島。その利他的行動力と爽やかイケメンぶりに間戸はハートを射抜かれた。しかし、間戸と佐津川はその後も交流があったものの、木目田、堂島とはそれっきり。ところが、妻と離婚して傷心の木目田を逆ナンしたうえにカバンを持ち逃げした女子高生が7年前のあの少女だったことから、4人と少女の運命の糸が再び絡み合い…。

一見バラバラな人々が、意外なところでつながっていくジグソーパズル的展開が小気味よい。各話タイトルが「案ずるより産むが易し」「三つ子の魂百まで」などのことわざになっているが、それこそ「袖すり合うも他生の縁」という感じ。ダメ会社員の間戸がいちばんまともに見えるくらい、酒浸りのコタツ記事ライター・佐津川、ストーカー気質の大学職員・木目田、元D通で今はネットカフェ暮らしだが天然女たらしの堂島と、全員が秘密を抱えつつ絶妙にトンチキなのもいい。妊娠や中絶、出産に関して女性側だけが責任を負わされている現状やモラハラ夫、宗教二世問題、保守的家族主義団体と政治の関係など、シリアスなネタを扱いながらノリはコメディ。テンポのいいコマ運びで切れ味鋭いセリフが機関銃のように乱射され、それぞれの人物の背景が少しずつ解き明かされていく。
今の風俗を巧みに取り入れ、笑いながらもヒリヒリする描写は実写でも共感を呼ぶはず。完成度の高い画面は、そのまま絵コンテにできそうだ。キャラはクセ者揃いでセリフもめちゃ多いので、芸達者な役者で固めてほしい。

『バッドベイビーは泣かない』
鳥飼 茜/講談社
早朝の駅のホームから少女が転落した現場に居合わせた4人の男女が7年ぶりに再会し…。それぞれに秘密を抱えた大人と少女が演じる予測不能のジェットコースタードラマ!
マンガ解説者。朝日新聞ほか各雑誌で執筆。著作に『現代マンガの冒険者たち』『マンガの食卓』『漫画家の自画像』『メガネとデブキャラの漫画史』など。2015年より手塚治虫文化賞選考委員も務める。