マンガの中には心揺さぶられる名言がたくさんある。そんな名言の数々を、現在連載中の作品から劇画狼がピックアップ! 来世で使いたいと思ってしまう名セリフを紹介します。
『るなしい』

『るなしい』石川スバルに見る
「当たり前の自信」
目に見えるものを本当に「ある」と認識できるかどうか。
視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚。人はこの五感を駆使して外界を捉えているが、もっとも多く使っているのは視覚。人が受け取る情報のうち約8割が視覚情報とされており、対人においても我々は視覚で得た笑顔、怒った顔など、表情から感情を読み取り相手の心境を想像してコミュニケーションを取ることができるため、赤ちゃんや動物とも心を通わせる(と思える)ことができる。
では、一見意思疎通が不可能だと思われているものから感情が読み取れてしまったとしたら、それはただ単に第六感や思い込みで済ませていいものなのでしょうか?

…ということで今回は、「宗教」「ビジネス」「恋」の悪い面を全て合体させた奇跡のマンガ『るなしい』より、主人公・るなの一番の理解者である石川スバルが放ったセリフがとにかく最高だったという話です。
ベストセラー作家として出演したニュース番組で、「宗教って人を幸せにするためのものだと思う。人を騙したら神様だって怒る(だからバチが当たった)」という出演者のコメントに対して「火神が禁じているのは性行為や恋愛であって金儲けや詐欺は禁じていない」と教義を説明した上で、「客観的に見て火神はいる。なぜなら事実として炎が揺れているので」と言い放ち、「あなたが言ってる『信じてる』って『ない』ものを信じてるってことでしょ」「こっちは事実として『ある』って言ってんだよ」と断言。

世の中には、理解できないことをなんでこんなに自信満々で言えるんだという人が一定数いるが、あるかどうか分からないものを想像して「信じるか信じないか」考える人と「ある」から「ある」とだけ言ってる人間が分かりあえる訳がないので、結果としてスバルは正しく、火神は存在する。発言を裏付ける根拠なんか自分の中にだけあればいい。至りたい人格の完成形がこの人だ。
『るなしい』にはこれだけでなく、主人公・るながケンショーに抱く「好き」が反転して復讐心へと変わる中での「手の内バレるのが怖くて信者ビジネスできるかって」「私の印象じゃ神様ってもっとヤクザだけどね」などのセリフも熱く、最終的に自身の信者である投資家を使ってケンショーに大金を融資させてから計画倒産させ莫大な負債を発生させる大爆撃を敢行した上で両者破滅するけど謎のハッピーエンドになる快作なので是非ご一読を。

『るなしい』
1~5巻 意志強ナツ子/講談社
るなとケンショーの愛憎入り混じるビジネス勝負もいよいよ佳境に。後戻りできない「信者ビジネス」マンガ、ついに完結!
特殊出版レーベル・おおかみ書房代表。プロの漫画家が商業誌に掲載したが単行本化されなかった未収録作品の書籍化や書評、原画展企画、イベント司会など。