累計発行部数 100万部を突破した東野圭吾の小説『クスノキの番人』。東野圭吾といえばこれまでに多くの作品が映像化されているが、アニメ化は今回が初となる。オーディションを経て、本作でアニメーションの声優に初めて挑戦した齋藤飛鳥さんが感じたこととは?
自分が思っている感情の度合いがそのまま声に乗るとは限らない
――アニメーションの声優に初挑戦しました。どういう準備をして臨みましたか?
齋藤 長編アニメーションの声優は初めてということもあって、何を正解と思って進んでいけばいいのか、正直不安なところはありました。ただ、私が選ばれたということは、何か現実的でない技術的を求められているわけではないと思ったので、もちろん原作はしっかり読み込んで、自分が思う優美ちゃんの像からひとまず離れないようにして、あとはもう現場で監督のおっしゃることを聞こうと決めました。
――現場で監督とはどんなやり取りがあったのですか?
齋藤 現場に行った初日に、何で私が選ばれたかということを話してくださいました。やはり技術的なことというよりは、優美という役のイメージに私の声が当てはまっていたと言ってくださって。それはすごく光栄なことなので、できるだけ監督が持っている優美のイメージからそれないように、なおかつあまりつくり過ぎないでやっていったらいいのかなと自分なりに捉えることができました。
――特に印象に残っている場面はどこですか?
齋藤 いちばん印象に残っているのは、優美ちゃんが登場して、まだ何者かわかってない中で玲斗に見つけられて、焦って逃げている場面で、足を滑らせて転んだ際に発した叫び声です。どうやってやるのかなと思っていましたが、声を出しながらマイクから離れていくという方法で録りました。しゃがんで離れるのか、後ろを向いて離れるのか。けっこういろいろな叫び方を試して、私ってこんな叫べるんだなって思いました。自分史上最大の叫び声が出ていると思います。あとは、やっぱり玲斗とのかけ合いは面白かったですね。いつも優美ちゃんがかき回すところがあるので、実際に玲斗役の高橋(文哉)さんと声を当てていてもテンポがよくて、すごく楽しかったです。
――今回、声だけに特化してお芝居をしたわけですが、表現の面で何か発見や学びはありましたか?
齋藤 すごくありました。自分の声がどんなふうに人に聞こえているかをこれまで意識したことがあまりなかったので、画とせりふに当てはまるような感情をつくって声を出しても、意外ともう少しやって大丈夫だったり、逆にちょっと大袈裟だから引いたほうがよかったり、その塩梅は実写のお芝居とはまったく違いました。表情とか動きがついているお芝居だったら、例えば目の動きだけで怒りが伝わったり、悲しみが伝わったりします。でも、声だけで表さないといけないとなると、思っている以上に感情を大きく乗せたほうがいい場合もあったりして、つかむまでちょっと時間がかかりました。自分が思っている感情の度合いがそのまま声に乗るとは限らないというのは大きな学びでしたし、息の使い方も普段何気なく声にならない声を出しているけど、それも意識してやると聞こえ方が全然違ってくるので、今後の実写のお芝居でも生かせるかなと思います。
高田純次さんみたいになりたい
―― 新しい世界に飛び込んでいくときはどんな気持ちですか?
齋藤 不安や心配ももちろんありますけど、それよりはわくわくする気持ちのほうが大きいです。今回も東野圭吾さんの初アニメーション映画作品ということで、初めは緊張しました。でも、高橋さんもいて、天海(祐希)さんもいて、大沢(たかお)さんもいて、宮世(琉弥)さんもいて、頼もしいみなさんがいてくださるので、きっと大丈夫だろうと。心配よりは新しいことができることの喜びが大きかったです。
――何事も楽しもうという考えは、元々そうだったんですか?
齋藤 そこは変わったのかもしれないです。昔はたぶんそんな余裕もなかったと思います。今はある程度自分の力量を把握しているし、もし何か失敗があっても立て直す術はどこかに必ずあることもわかっています。もちろん周りの方も支えてくれますし、現場でしっかりやることをやればちゃんと結果につながることもわかるようになりました。べつに自信満々なわけじゃなくて、いい意味で自分に期待をかけていないので、フラットに楽しめるのかなと思います。
――将来的にどうなっていたいという目標みたいなものはあるんですか?
齋藤 私、高田純次さんみたいになりたいんです。
――どういうことですか?(笑)
齋藤 めっちゃ素敵じゃないですか。適当なところとか(笑)。
――あの適当な感じが、、、ですか?
齋藤 でも、それでみんないいわけじゃないですか。みんな笑って、みんなハッピー。ハッピーがいちばん最高なので。私自身もこうやって表に出る仕事をしていますが、だからといって自分のすべてを切り売りするようなことはしません。いい感じに適当なことを言って、適当な奴だなと思われればいいです。高田純次さんは初めの頃どれだけ考えてやっていたのか、もちろん私には知り得ないことですが、それがいいんです。知らなくていい。それでみんな笑ってハッピーになるんだったら、素晴らしいことです。「どうも、ミランダ・カーです」とか言いたいです(笑)。
――いきなりそんなことを言われたら、みんな戸惑うでしょうね。
齋藤 そうなんですよね。できるだけシームレスにやっていくつもりですけど、もし何か異変に気づいても、「お、やっているな」と思って、温かい目で見守ってください。
少しずつ人間っぽくなってきた
――普段は何が息抜きになっているんですか?
齋藤 何だろう。でも、本当に今は息が詰まるようなことがないんですよね。仕事もいいペースでやらせていただいているし。強いて言うなら、自然に触れたり、おいしいご飯を食べたり、そういう人間らしいことをするのが好きです。
――人間らしくない状態ってどんな状態ですか?
齋藤 働き詰めはよくないですよね。そうも言っていられない方も多いでしょうけど、働き詰めにならず、ビルばっかり見てないで、自然をちょっと見たいですよね。
――最近大きく心を動かされたことはありますか?
齋藤 日常で感情が大きく揺れることがあんまりないんです。「あっ、幸せだな」とか「ちょっとイヤだな」とか、多少の揺れ動きはあるんですけど、基本的にフラットなことが多いので。
――齋藤さんは周りの人からわかりにくい人と言われているのか、わかりやすい人と言われているのか、どっちなんですか?
齋藤 えー、(マネージャーさんを見て)どっちなんですか?
マネージャー わかりやすいと思います。
――表情とかですか?
マネージャー 表情もそうですけど、例えば「これどうですか?」と聞いて、「いいですね」という返事があったら、その言い方やトーンでどれくらいいいと思っているのかはわかります。「ああ、その『いい』ね」って。
齋藤 バレているんだ。
――しっかり声に感情が乗っているということですね。
齋藤 いいように解釈するのであれば、大人になったということかもしれません。今までは本当に何を考えているかわからないと言われまくってきたので、少しずつ人間っぽくなってきたんだと思います(笑)。
1998年生まれ。東京都出身。「乃木坂 46」元 1 期生メンバー。23年5月にグループを卒業。その後、俳優、モデルとしても活動し、『【推しの子】The Final Act』(24年)で第 48 回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。近年の主な出演作は、『映画 マイホームヒーロー』(24年)、「ライオンの隠れ家」(24年/TBS)、『【推しの子】The Final Act』(24年)、『父と僕の終わらない歌』(25年)、「恋は闇」(25年/日本テレビ)など。現在、「テミスの不確かな法廷」(26年/NHK)に出演中。
映画『クスノキの番人』
1月30日(金)全国公開
理不尽な解雇により職を失った青年・直井玲斗(高橋文哉)は、追い詰められた末の過ちで逮捕される。そんな彼に訪れた運命的な出会い。「依頼人の指示に従うなら、釈放する」。そう告げる弁護士の条件を呑んだ玲斗の前に、亡き母の腹違いの姉だという柳澤千舟(天海祐希)が現れ、クスノキの番人になることを命じられる。戸惑いながらも番人となった玲斗は、さまざまな事情で境内を訪れる人々と出会う。クスノキに定期的に足を運び続ける男・佐治寿明(大沢たかお)、その娘で父の行動を不審に思う女子大生・佐治優美(齋藤飛鳥)、家業の継承に葛藤する青年・大場壮貴(宮世琉弥)。彼らと関わるうちに、玲斗の世界は少しずつ色を帯びていく。だが、玲斗はクスノキが持つ“本当の力”をまだ知らなかった――。
原作:東野圭吾『クスノキの番人』(実業之日本社文庫刊)
監督:伊藤智彦
高橋文哉 / 天海祐希
齋藤飛鳥 宮世琉弥 / 大沢たかお
配給:アニプレックス
Ⓒ東野圭吾/アニメ「クスノキの番人」製作委員会