2021年にNHKで放送されたテレビドラマ「オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ」。オダギリジョーさんは本作で脚本・演出・編集を務め、自ら犬の着ぐるみを着て警察犬を演じるという奇抜な設定と作劇の面白さが評判を呼び、22年にはシーズン2が放送された。その伝説のドラマが、なんと『THE オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ MOVIE』としてスクリーンに登場する! 映画化にまつわる話題を皮切りに、監督業への思い、クリエイティブの源泉などについてインタビュー。
もし違う次元で生きていたら

――テレビドラマ「オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ」はシーズン2まで放送され、ラストに豪華出演者が舞台に一堂に会して大団円を迎えたと思いましたが、今回まさかの映画化です。映画でも毒舌や下ネタは健在でありながら、常識や固定概念が壊され、表現はさらにぶっ飛んでいます。どういった経緯で企画がスタートしたのですか?
オダギリ シーズン2が終わったあと、「あと1本書いて欲しい」とお願いされたので、新たに脚本を書いたんです。ただ、その脚本はどう頑張ってもテレビの予算では成立させられず、「だったら映画にしましょうか」というアイデアが出てきたんです。とはいえ、最初に書いた脚本はスケールが広がり過ぎて4時間以上の内容になってしまい、「映画として前後編でつくるのか?」など、簡単にまとまる話ではありませんでした。結局のところ、その脚本は諦め、まったく違う脚本をまた書くことになってしまいました。
――物語は6つのエピソードで構成されていて、それぞれが不思議なつながりをしています。このアイデアは最初からあったものなんですか?
オダギリ いろいろな世界を行き来する、というアイデアは最初からありました。パラレルワールドというと大袈裟なんですけど、自分たちがいる世界とはまた違う別の次元が存在してもおかしくないし、「そこにいる自分はどういう自分なんだろうか」とか「ほかの人たちとの関係性は変わるんだろうか」とか、そういったことを想像するのは面白いじゃないですか。それを一度脚本にしてみたいと思っていたんです。この映画の世界観は、もしかしたら「オリバー」のテレビシリーズとは違う次元の存在なのかもしれない…とも取れるような、ちょっとねじれた世界を描いてみようと思っていました。テレビシリーズを見ていただいていた人にはきっといくつか謎が解ける部分が楽しいだろうし、見ていないという人も前情報なしで楽しめるようにつくっているので、安心してご覧いただければと思います。

――こうなってくると、最初に書いた脚本も気になります。まったく違う話なんですか?
オダギリ まったく違う話です。あっちは「ひとつの事件を中心に、オリバーと一平、そしていつものメンバーが、深津絵里さん演じる羽衣弥生の協力を得ながら解決していく…」という、いわばテレビと同じつくり方ではあるけど、映画的なスケールや見どころをここぞと入れまくった豪快な作品でした。そういう意味で、今作のほうがより映画的なこだわりや歪な美学が詰め込まれたものになっていると思います。
――難しいとは思いますが、幻の脚本もいつか実現したら面白そうですね。
オダギリ そうですね(苦笑)。ただ、莫大な制作費がかかることがわかっているので、この映画がそれこそ『国宝』みたいにヒットしたらつくらせてくれるかもしれないですけど(笑)。

脚本ではいろいろやりたくなるけど、現実は難しさしかない
――『オリバー』では脚本、監督、出演、編集をされています。どれも役割が違い、作業のプロセスも異なりますが、それぞれどういうものとして捉えていますか?
オダギリ すべてを正直に話すと、脚本を書くのはひとりの作業なので、マイペースに自由に書いています。だいたい夜書きますね。本当に自由なんですよ、文字の表現って。読み手の想像力に頼りながら、ある程度曖昧にしておけるんです。例えば、「暖かい風が駆け抜けていった」みたいなことを書いた場合、それでそのシーンはなんとなく終われるんです。そこには読み手の想像力に委ねた終わり方があるわけで、曖昧ではあるけど、悪くないイメージで次のシーンに進めるんですよね。ただ、それを実際に現場で映像化するとなったときに、その風の暖かさをどう表現したらいいのかもわからないし、「どのくらいの扇風機が必要でしょうか?」ということになるんです。ただ扇風機で風を吹かせばそのシーンが終われるわけではないんです(苦笑)。文字では成立するけど、その脚本によって苦しめられるのが撮影現場なんですね。
――そうなんですか。
オダギリ 思い通りにいかないことばかりです。ロケ場所だって簡単には見つからないですしね。撮影時間や天候はどうにもならない。俳優のスケジュールも限られています。自分が書いた脚本に悩まされながら、日々起きるトラブルに対応し続けるのが撮影現場です。ときには諦めざるを得ないこともあります。でも、それを編集でどこまで取り返すかになるんですよね。現場でできなかったことや足らなかったことを編集でいかにフォローするか。自分にとっては編集作業がいちばんクリエイティブな時間ですね。

――かなり編集で入れ替えるのですか?
オダギリ ゼロからつくり直します。だいたい自分のつくったカット割りどおりに画を置いても面白くないんですよ(苦笑)。カット割りはすべて捨てて、現場で撮影した素材を見直し、そこから使えるカットを拾い上げ、脚本を書いていたときの自分のイメージに近づけるように組み立て直していきます。編集といってもオフライン編集とオンライン編集との2つがあり、それぞれの工程で作業がまったく変わるので、自分のこだわりを詰め込みまくります。通常の映画の編集は1ヶ月もかけないでしょうが、この作品は6ヶ月くらいかけてるんじゃないでしょうか。それくらい自分にとっては大切な作業であり、自分らしさを入れ込める作業だと思っています。編集作業で行けるところまで行き着いた後は、今度は音響の作業ですね。自分は音楽をつくったりしていたので、音にはまたうるさいんです(苦笑)。普通の人には聞こえにくい、気にならない音まで聞こえてしまうので、音の作業もかなり細かいところまで突き詰めます。ただ、それはあくまでそのシーンの補足のためなんですけどね。「ここの表現が足りてないな」とか「ここは少しわかりにくいな」という部分に音をつけることで伝わりやすくできるんです。例えば、さっき話した「暖かい風」みたいなことは映像だけでは難しいから、音を加えて表現する可能性はありますね。そうした、自分の力不足を補う作業がポスプロ(撮影後の作業)です。
――監督として現場で喜びを感じることはないんですか?
オダギリ 喜びはほぼないですね。ひとつの作品で1度あるかどうかです。さっきも愚痴ばかりになってしまいましたが、自分にとっては現場がいちばん苦しいし、修行のような場だと感じています。
――今回は『ある船頭の話』(2019年)に続いて長編映画2作目となりますが、また監督をしたいと思うのはなぜなんですか?
オダギリ ここまで話してわかっていただけたと思うんですが、監督と言ってもいろんな側面を持っていて、現場で演出をつけ、画をつくるのが監督の仕事に見られがちなんですが、そうだとしたら自分には合わないと思います。別の側面である脚本や編集といった作業は自分の性格に合っているので、それは楽しいと言えるんですよね。映画づくりにはいろいろな過程があって、それぞれに職人もいれば、監督みずからその職を担うこともあります。そのどこかに自分の適性を含めて、面白さを感じるから、やりたいと思うのでしょうね。

オンとオフはあんまり考えたことがない


――どういうときにアイデアが生まれるのですか?
オダギリ 普段から面白いなと思うことは携帯にメモしてますよ。世の中には理解できないこともあれば、想像を超えて笑ってしまうこともあったり、それらは忘れないようにメモを残しています。また、これはめったにないことですけど、今回の映画の設定の中には40℃近い高熱を出して寝込んでいるときに浮かんできたアイデアもありました。
――なるほど。だから、あんな不思議な設定なんですね。
オダギリ 死に近い状況に得た“啓示”みたいなものなのかなと思いますね(苦笑)。そういった経験は他にはないですが。
――アイデアになりそうなものを自分から積極的に探しにいったりすることはしないんですか?
オダギリ 例えば、なるべく映画館で映画を見ようとは思っていますけど、それは何かを探しに行っているのわけではないですもんね。強いて言うならドキュメンタリー作品はいろいろな人の姿がそこに見えるので、意識して観る感覚はあるかもしれません。それよりも日々の暮らしの中で、気づく範囲の刺激を受けたいと思っています。結局映画というのは、自分の近しい問題を扱うべきですからね。

――忙しい日々を送っていると思いますが、普段の息抜きはどうしているんですか?
オダギリ あんまりそんな緊張感をもって生きているわけではないので、とりたてて息抜きが必要とは思っていません。普段の延長線上にものづくりがあればいいと思っているから、オンオフ関係なく、普段の生活を楽しみ、欲を言うとそこから新しい感覚で何かクリエイティブな発見があればいいな、という感覚ですね。
――では、最後に。最近気になったことは何ですか?
オダギリ なんだろう。『国宝』が大ヒットしているのはすごくうれしいですね。メジャーなエンタメ作品とはいえ、扱う題材は狭い世界ですからね。あそこまでヒットするとは想像してなかっただろうし、丁寧につくればああいう作品も大ヒットするんだという実例を残してくれました。一言でいえば、映画館に人が戻ってほしいし、劇場でしか感じられない体験をしてほしい。家で観る映画とはまったく違うということを再確認してほしいということに尽きるのかもしれません。

1976年生まれ、岡山県出身。『アカルイミライ』(2003年)で映画初主演。以降、国内外の映画作品に数多く出演し、数々の俳優賞を受賞。また、俳優業のかたわら監督業にも進出し、長編初監督となる『ある船頭の話』(2019年)はヴェネチア国際映画祭に選出された。公開待機作に『兄を持ち運べるサイズに』(11月28日公開予定)がある。
『THE オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ MOVIE』

2025年9月26日(金)全国公開
狭間県警鑑識課警察犬係のハンドラー・青葉一平(池松壮亮)。一平の相棒は、数々の難事件を解決に導いた伝説の警察犬・ルドルフの子供であるオリバー。だが、一平以外の人間には優秀な警察犬に見えているが、どういうわけか、一平にはオリバーが口が悪くてやる気がない、女好きで慢性鼻炎の着ぐるみのおじさん(オダギリジョー)に見えている。ある日、一平や鑑識課メンバーの前に、隣の如月県のカリスマハンドラー・羽衣弥生(深津絵里)がやってきた。如月県でスーパーボランティアのコニシさん(佐藤浩市)が行方不明になったため、一平とオリバーに捜査協力を求めてきたのだった――。
脚本・監督・編集・出演:オダギリジョー
出演:
池松壮亮 麻生久美子 本田翼 岡山天音
黒木 華 鈴木慶一 嶋田久作 宇野祥平 香椎由宇
永瀬正敏
佐藤浩市
吉岡里帆 鹿賀丈史 森川 葵
髙嶋政宏 菊地姫奈 平井まさあき(男性ブランコ)
深津絵里
制作プロダクション:MMJ
配給:エイベックス・フィルムレーベルズ
コピーライト:© 2025「THE オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ MOVIE」製作委員会