2025.11.04
最終更新日:2025.11.04

【三宅唱監督インタビュー】映画『旅と日々』|ロングショットで自然を収める歓び

最も歴史ある映画祭の一つとして有名なロカルノ国際映画祭で最高賞を獲得した映画『旅と日々』。受賞後すぐの三宅監督に、つげ義春原作である映画への思いを尋ねた。

都市から外に出て、別の人生に出会う旅

三宅唱

 国内外でその名を轟かせる映画監督、三宅唱。コロナ禍の東京で撮った『ケイコ 目を澄ませて』と『夜明けのすべて』が高く評価され、新作もまた公開前から注目を集める。

「東京は学生時代から20年ほど住んだ土地。思い入れもあるけど、大げさに言えば“ほかの人生もあるんじゃないか”と思っていた。そのタイミングで『旅と日々』の企画が始動し、つげ義春のマンガを何度も再読しました。旅をしながら創作に向き合う本作の主人公は、僕自身にも重なります」

 ロケ地は伊豆諸島の神津島と山形県の庄内地方。夏の離島と冬の豪雪地帯だ。登場人物たちを出迎える美しく厳かな自然風景の数々に、三宅監督は得意のロングショットで応える。

「つげさんのマンガの絵の上に紙を置いて、なぞり描きしてみたんです。そうしたら雨や雪などの天候や風景がいろんな技法で描かれていて、ものすごい表現力を実感しました。同時に、僕はこの映画で非人間的な時間の流れをとらえたかった。この世界には人間以外の生物やわれわれが感知できない大事なものがあるのだと。もともと風景を撮ること自体すごく好きですし、『よし、今回は思う存分やろう!』と熱が入りました」

三宅唱 2

 上映時間は89分。タイトにまとまった映画の中に、希望に満ちたまなざしと想像を促す十分な余白がある。

「例えば、主人公が東京から山形の宿へ行く場面。その道程を何カットで描けるか。その圧縮の技術にこそ、自分の仕事が表れています。90分以内で語りきる古典的映画に対する憧れですね。あと、ちょっとした合間で映画館に行けるはずなので、忙しい人にも見てもらえたらなと。もし暇ならぜひ2回連続で(笑)!」

映画監督
三宅 唱

1984年北海道生まれ。一橋大学社会学部卒業、映画美学校・フィクションコース初等科修了。主な監督作品に、映画『きみの鳥はうたえる』『ケイコ 目を澄ませて』『夜明けのすべて』などがある。シム・ウンギョン、堤真一らを迎えた新作映画『旅と日々』は第78回ロカルノ国際映画祭で金豹賞(グランプリ)とヤング審査員賞特別賞をダブル受賞。11月7日より全国公開。

映画『旅と日々』

映画『旅と日々』

© 2025『旅と日々』製作委員会
配給:ビターズ・エンド
2025年11月7日(金) TOHOシネマズ シャンテ、テアトル新宿ほか全国ロードショー

【あらすじ】
強い日差しが注ぎ込む夏の海。ビーチが似合わない男(髙田万作)が、陰のある女(河合優実)に出会い、ただ時を過ごす――。脚本家の李(シム・ウンギョン)は行き詰まりを感じ、旅に出る。冬、李は雪の重みで今にも落ちてしまいそうなおんぼろ宿でものぐさな宿主、べん造(堤真一)と出会う。暖房もなく、布団も自分で敷く始末。ある夜、べん造は李を夜の雪の原へと連れ出すのだった……。

【キャスト・スタッフ】
監督・脚本:三宅唱
原作:つげ義春「海辺の叙景」「ほんやら洞のべんさん」
出演:シム・ウンギョン 堤真一 河合優実 髙田万作 佐野史郎 斉藤陽一郎 松浦慎一郎 足立智充 梅舟惟永

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