2025.09.18
最終更新日:2025.09.18

【映画『宝島』】対談・妻夫木聡×窪田正孝が考える「役者とスタイル」

スタイルのある男は、洋服の選び方にも仕事との向き合い方にも矜持がある。映画『宝島』での共演で話題沸騰中、妻夫木聡と窪田正孝の対談が実現。ファッションと演技の両面について伺うと、その異なる魅力から役者二人のスタイルが浮き彫りになってきた。

二人のファッション観、演技論を深掘る

妻夫木聡
ジャケット¥99,000・シャツ¥37,400・パンツ¥46,200/オーラリー

可能性を限定せず、柔軟でいたい。
スーツは年を重ねてこそチャレンジしたい服

まず二人に着てもらったのは、キャラクターの異なるスーツ。「最近、スーツを初めてオーダーしました。派手にデザインされたものよりも自分の身体にぴったりで背筋の伸びる服が着たかった。このオーラリーのセットアップも同様に身が引き締まる。似合う自分になりたいと思える服です」(妻夫木さん)。クラシックな仕立てのセットアップに、ミントグリーンのシャツで、柔和さもプラス。

窪田正孝
ジャケット¥544,500・シャツ¥291,500・パンツ¥272,800/ジル サンダー(ジルサンダージャパン)

何を食べ、何を着ていると気持ちいいのか
感受性を濁らせないことを大切にします

「心地よさに敏感でいるために、慌ただしく作業をこなすのではなく余白の時間が必要。洋服なら背景も知ったうえで着たい」と語る窪田さんはグレーのセットアップを。デザイナーのメイヤー夫妻らしさがにじんだ、スーツらしい構築的なデザインとビッグシルエットが特徴だ。シャツでレトロなチェック柄を差すことで遊び心をもうひと押し。

妻夫木聡 2

 超大作との呼び声が高い映画『宝島』。直木賞を受賞した真藤順丈の小説を原作に大友啓史が監督を務め、米統治下の沖縄を舞台にしながら時代に抗う若者たちの姿を描いた本作。主演・妻夫木聡とその幼馴染役・窪田正孝が、二人の共演が決まったときの心境から振り返る。

妻夫木「ほかの映画で窪田君と共演した直後のことで、また一緒にやれることが純粋にとてもうれしかった」

窪田「プライベートで通っているジムで偶然会い、共演できることを喜び合ったのが最初でしたね。まずは監督と役者陣の顔ぶれがうれしく、僕は出演を即決したんです」

 戦後の沖縄を圧倒的な熱量で描いた本作はアクションや感情を爆発させるシーンも多数。うちなんちゅ(=沖縄人)そのものとしてスクリーンに現れた両氏はどのように役をつくり上げたのか?

妻夫木「演技の掛け合いについての話はしませんでした。演技だけに集中すればいい次元ではなく、おのおのが沖縄と対峙することがいちばんの課題。大友監督は役者に委ねてくださる方で、細かな感情への指示はしません。僕たちは言葉にしようがないものの表現を求められていたし、生身を現場でぶつけ合ったよね」

窪田「まさにそのとおりで、東京の今を生きる人間として到底、理解の及ぶものではなかった。舞台はスマートフォンもない時代で隣人とのプライベートの境目もはっきりせず、まるでみんなが家族のよう。さらに沖縄という土地だからこそ紡がれた歴史がある。沖縄弁をうまく話せたり、沖縄の踊りができたりする表面的なことは役づくり以前の話。監督は『ここで生きた人間を撮ったら何が出てくるのか?』と想像を超えるものを期待していて、僕たちは丸裸の人間である必要があった。演技についての議論にはある種意味がなかったんです」

妻夫木「沖縄には親友が住んでいてもともと思い入れの強い場所ですが、その親友たちの案内でガマや佐喜眞美術館に行き、身動きがとれなくなるほど衝撃を受けることもありました。知っているつもりで知らない沖縄一つ一つに対峙し、あらためて感じるということの大切さを実感しました」

窪田「感じ取りながら過ごす中で僕は海が怖くなってしまい、泳ぎに入れなくなったりもして…」

妻夫木「そうだったね。それでも窪田君とはプライベートで楽しい時間も過ごしたしまるごと含めて思い出」

窪田「素敵な方の友人は素敵な方で…妻夫木さんの親友のお宅に遊びに行ったときには本当によくしていただきました。もずく鍋も最高でした」

妻夫木「ありがとう(笑)。ちょうど窪田君が減量中で、どさっと売っていた新鮮なもずくをたっぷり鍋に入れたね。とてもヘルシー」

窪田正孝 2

 二人は撮影を通じて触れた、沖縄の伝統や先祖を大切にする風習から得たものも多かったと言う。

窪田「沖縄の文化に触れ、生きているときに何をするかをより考えるようになった。人が物欲を満たしても物は死ぬときに身体とともになくなってしまう。誰かに貢献することでしか幸福は得られないと思うし、それが自分の宝を見つけ、後世に宝を残すことなのかな、と」

妻夫木「僕もこの作品を経て、死は終わりを意味するというイメージが覆った。むしろ魂が誰かの心に残ることで一緒に生き続ける感覚。『おまえちゃんと生きてるか?』と映画に言われているようで生きるパワーをもらいました」

 役者として、生き方としても新境地にいる両氏に「スタイルのある男性像」について深掘って伺う。

窪田「大切にしているのは、自分に余白をつくってあげること。忙しさに没入すると自分を見失うし軸がブレる。心地よさに意識を傾けるための余白が必要で、食べ物一つとっても、寿司を握った職人さんの手から込められたエネルギーをおいしさとして感じ取れるか。そういうことが重要だと思っています」

妻夫木「僕は身体の声を聞いてみることも必要だなと感じています。そのとき本当に自分の身体が必要としているものは何だろう、と」

窪田「まさに、そういう身体と心が喜ぶ体感を大事にしているんです。不必要なものをとっていると自分の舌の味への判断が鈍る。例えばだらしない生活に慣れてしまうとそれに気づかなくなってしまうように」

妻夫木「かっこよすぎない(笑)? 僕は仕事に奔走して帰って飲むビールが無条件においしいと思ってしまうからな…」

窪田「いえ、それこそが妻夫木さんのすごさです。その仕事量の中で、大勢の人に思いやりを行き届かせる働き方は僕にはできないし多分断っています(笑)。僕とは違うけれど、ある種、妻夫木さんのスタイルが確固としてあるように映るんです」

妻夫木「でもスタイルと言われると難しいよね。僕が20代の頃、個性派な先輩俳優さんが多く、魅力を貫いて磨き上げているのが本当にかっこよく映った。でも、僕はそういうタイプではなかったんだよね。当時は『ウォーターボーイズ』に出演したり、喜劇も真面目な芝居もいろんな役に取り組んだ。それで30代になってからかな? 逆に『俺色』があまりないってラッキーだと思えるようになりました。何をスタイルと言っていいのかはわからないけれど…個性がないなら何にでもなれる、役者として死ぬまで挑戦し続けられる、と思ってすごく気が楽になってるよ」

窪田「…妻夫木さんのほうが、かっこよすぎません!?」

妻夫木聡

1980年福岡県生まれ。映画『ウォーターボーイズ』で一躍注目を集め、数々の映画・ドラマの話題作に出演。映画『ある男』で日本アカデミー賞最優秀主演男優賞を受賞。

窪田正孝

1988年神奈川県生まれ。映画『ある男』では日本アカデミー賞最優秀助演男優賞を受賞。2025年10〜11月に、主演舞台『チ。─地球の運動について─』が全国5カ所で上演予定。

映画『宝島』

映画『宝島』
©真藤順丈/講談社©2025「宝島」製作委員会

1952年アメリカ統治下の沖縄が舞台。失踪したコザの英雄オン(永山瑛太)、刑事になりオンを探すグスク(妻夫木聡)、オンの弟(窪田正孝)、オンの恋人ヤマコ(広瀬すず)らを中心に、圧倒的熱量で描く青春群像劇。9月19日公開。

RECOMMENDED