2025.10.23
最終更新日:2025.10.23

【杉咲花インタビュー】映画『ミーツ・ザ・ワールド』|わかり合えないことを恐れない

金原ひとみの同名原作を、松居大悟が映画化した『ミーツ・ザ・ワールド』で主人公の由嘉里を演じた杉咲花さん。作品の話題を皮切りに、演じること、自分のこと、生活することなどについてインタビュー。

自分の中での正解が必ずしも正解ではない

杉咲花

――杉咲さん演じる主人公の由嘉里は、自分のことを好きになれず、仕事と趣味だけで生きていくことへの不安と焦りを感じているという役柄です。最初にオファーがあってから、どのように作品を捉え、役に向かっていきましたか?

杉咲 なにより原作に惹かれたことが大きくて、映画化されたときに一読者としてどんなものが見たいか、という視点を大切にしたいと思っていました。小説は、言葉を尽くされたものですよね。それが映像になったとき、黙って何かを伝えなければならない場面もあれば、音にすることでその人物がどのような領域にいるのかをより観客に伝えられる場面もあるわけで。そういったバランスをどこに置いていくかということを監督と話し合いました。

――由嘉里は、ある日迷い込んだ未知の世界で、交わることのなかった人たちと出会い、違いを受け入れることで、自分を受け入れられるようになっていきます。杉咲さん自身、他者と接するうえで心がけていることはありますか?

杉咲 わかり合えないことを恐れない、ということですかね。わからないから敵ではないし、脅威でもない。自分にとっての未知の存在を知ろうとすることであったり、なぜそういう思考を持っているのかを想像することが、他者と関わり合いを続けていくよすがな気がしています。

ミーツ・ザ・ワールド

――映画『52ヘルツのクジラたち』(24)やテレビドラマ「アンメット ある脳外科医の日記」(24)での脚本ブラッシュアップ時のアイデア出しなど、近年は作品への関わり方がより深くなっている印象を受けます。何かきっかけがあったのでしょうか?

杉咲 個人的に、物語で描かれる人物に対して、ひとつのキャラクターとしてではなく、自分と同じように世界を生きている人間という意識を持っていたくて。そのような感覚はもともと自分の中にあった気がするのですが、いろいろな人との出会いであったり、作品に関わる中で、拙いながらも言語化できるようになってきて、意見を交換していくことの大切さを実感するようになってきました。それと同時に、自分の中での正解は必ずしも正解ではなくて、だからこそ、自分と異なる意見を持つひとの話を大切に聞きながら、思考を続けることは忘れないでいたいなって。作品はこの先もきっと残り続けていくものだと思うので、自分が想定していなかったところにも届くかもしれないという意識は、やっぱりしていたいですし、たくさんのクリエイティブな頭で物語が生まれていく瞬間は、感動します。

ミーツ・ザ・ワールド 2

震える思いで日々現場に行く

――キャストやスタッフとのやり取りで何か印象に残っている出来事はありますか?

杉咲 やっぱりライ役の南琴奈ちゃんとの出会いは大きかったですね。

――ライは歌舞伎町で働くキャバ嬢で、由嘉里を新たな世界へと導く重要な存在ですよね。

杉咲 はい。琴奈ちゃんとは、ずっと近くにいました。現場が彼女にとって居心地のいい場所になったらいいなという気持ちもあって、割と積極的に話をするようにしていたのですが、気づいたらいつの間にか私のほうが救われているようなときがたくさんあって。必要不可欠な存在になっていました。琴奈ちゃんは、とても優しくて、飾らなくて、心地のいい人なんです。

――ライのマンションで、二人で空を見上げるシーンはすごくよかったです。心が通い合ったことが伝わって。

杉咲 うれしいです!

杉咲花 2

――ほかに、「これは撮れてよかったな」と思えるシーンってありますか?

杉咲 私自身、撮影中は終始プレッシャーを感じていて、「怖いな」「できるかな」と考えてしまうタイプなので、ひとつひとつのシーンを撮影するたびに安堵していました。

――今でもそんなにプレッシャーを感じるんですか?!

杉咲 そうですね(笑)。まったく打ち勝てないです。震える思いで日々現場に向かっています。

――慣れることはないんですか?

杉咲 慣れないですね。前はすごくコンプレックスでしたが、ここ数年で考え方が変わってきました。慣れたら自分の表現に満足しちゃうかなって。なので、必要な緊張だといまは思うようにしています。と言いつつ、少しは楽にもなりたいのですが(笑)。

杉咲花 3

――この映画を通じて、何か気づきや学びといったものはありましたか?

杉咲 この作品の撮影にかかわる時間は、苦しい日々だったんですね。家に帰ってもしんどいなと思う時間が多くて、それがなぜなのかわからなかったんです。でも、取材などで話をするうちに何となくわかってきた部分があって。たぶん由嘉里という人物が自分の影に重なるようなところがあったんだと思います。他者との境界線が曖昧になってしまうところとか、自分を好きになれない部分とか、なんだか共振する部分があって、人に見られてはいけない姿を晒しているような気がしてしまっていたというか。なので、恥ずかしかったり、苦しい時間が多かったけれど、今こうして当時を振り返っているうちに、少しずつ昇華されているような感じがあります。

杉咲花 4

日々の暮らしを大事にしたい

杉咲花 5

――これまで経験したことのない役柄に挑戦するときとか、新しい世界に飛び込むときはどういう心持ちで臨んでいますか?

杉咲 どんな役も、演じることは覚悟がいることだなと思います。登場人物に対して、自分を投影して観る方がいるかもしれないので。だからこそ、生半可な気持ちではやれないなって。

――今回の作品はどういうふうに届けたいと思っていますか?

杉咲 この作品に関わることで、自分自身が救われたかったのかも、と思ったりもするんですよね。でも、何だろう、自分みたいに、そうやって自分のことを受け止めることに時間がかかる人とかに届いたらいいなと思います。

――今、お芝居するということは、杉咲さんにとってどういうものになっていますか?

杉咲 自分にとっては、世の中とつながる時間みたいな感覚ですかね。自分と異なる人生を生きてきた人のことを想像して、現場に集まった人たちと協力しながら毎日を過ごして、本番の瞬間、目の前にいる相手と何とかつながろうとする。その過程のすべてが、すごく小さくて大きな社会のなかにいる感じがするんです。誰かに届けるためには、まず目の前にいる人たちを大切にすることが大事なんじゃないかと思います。

――未来の自分の姿や立っている場所を思い描いたりしますか?

杉咲 そういうのはあまりなくて。この仕事を続けていけたら嬉しいですが、なにより自分のことを大切にできて、人のことも大事にできるようにいたいなと思いますし、そういったマインドをもっと研ぎ澄ましていきたいです。

杉咲花 6

――普段の息抜きはどうしているんですか?

杉咲 息抜きは、ご飯を食べに行くか、友達と遊んだり、電話したりすることですかね。それだけでちゃんと自分の生活に戻ってきた感じがするんです。

――普段の生活と仕事はきっちりと切りわけているんですか?

杉咲 いえ、密接につながっています。日々感じたことがお芝居に落とし込まれていったり、作品から学んだことが生活に反映されていくこともあって、どちらにも還元されている感覚がありますね。作られた作品は、この社会に届いていくものだという意識を持っていなければと思っていますし、作品に関わるということは自分がどういう視点で日々過ごしているかということの表明だとも思うので。だからこそ日々の暮らしを大事にしたいなと思っています。

杉咲花 7
ドレス¥231,000/フォルテ フォルテ(コロネット) イヤリング¥18,700/エテ リング¥115,500/シハラ(シハラ トウキョウ) その他/スタイリスト私物
杉咲花

1997年生まれ、東京都出身。2016年に出演した『湯を沸かすほどの熱い愛』での演技が高く評価され、第40回日本アカデミー賞最優秀助演女優賞・新人俳優賞、第41回報知映画賞助演女優賞、第59回ブルーリボン賞助演女優賞を受賞。その後、23年公開の主演映画『市子』では第47回日本アカデミー賞優秀主演女優賞と第78回毎日映画コンクール〈俳優部門〉女優主演賞を受賞。主な出演作にNHK連続テレビ小説「おちょやん」(20-21)、テレビドラマ「アンメット ある脳外科医の日記」(24)、映画『52ヘルツのクジラたち』(24)、『朽ちないサクラ』(24)、『片思い世界』(25)など。

『ミーツ・ザ・ワールド』

『ミーツ・ザ・ワールド』 3

2025年10月24日(金)全国公開

芥川賞作家・金原ひとみが新宿・歌舞伎町を舞台に描き、第35回柴田錬三郎賞を受賞した同名小説を映画化。二次元の世界を愛し、自己肯定感の低い主人公・由嘉里(杉咲花)が、キャバクラ嬢との思いがけない出会いをきっかけに、新たな世界の扉を開いていく――。

出演:杉咲花 南琴奈 板垣李光人 蒼井優 渋川清彦 筒井真理子

監督:松居大悟
原作:金原ひとみ『ミーツ・ザ・ワールド』(集英社文庫)
脚本:國吉咲貴 松居大悟
音楽:クリープハイプ

©金原ひとみ/集英社・映画「ミーツ・ザ・ワールド」製作委員会

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