日本を代表する舞踊家、田中泯さん。生前に親交のあった坂本龍一さんのドキュメンタリー映画『Ryuichi Sakamoto: Diaries』では朗読を務めた。坂本さんの日記の言葉をどのように声にしたのか。
評価されることはうれしいと同時に「クソ食らえ!」と思っている
「単純な言い方をすると、とにかく面白い人。彼と言葉を交わすのは楽しかった。世の中に対する興味や喜怒哀楽の感じ方が近かったのかもしれませんね」
2023年3月に亡くなった坂本龍一さんについて聞くと、舞踊家の田中泯さんはそうにこやかに言葉を返してきた。世界的な音楽家の最後の3年半の軌跡を収めたドキュメンタリー映画『Ryuichi Sakamoto: Diaries』で、泯さんは朗読を担当。坂本さんの日記に記された言葉たちを、生前に親交のあった泯さんが読み上げる。
「晩年の坂本さんの言葉を声にするのは至難の業でした。僕が最初に決めたのは、自分自身の感覚も解釈も手放すこと。ただ純粋に、そこにある言葉を声にする。坂本龍一という存在は誰もが知っていて、そのとらえ方は人それぞれです。だから単語の一つをとっても、浮かんでくる風景は観客ごとに違うと思います」
1974年より独自の舞踊スタイルで身体の可能性を探求し、世界中で踊り続けてきた。2025年には映画『国宝』での演技が話題になった。また長年のダンス活動から文化功労者にも選ばれた。世間からの評価を、自身はどうとらえているのだろうか。
「ものすごくうれしいです。僕が一生懸命になって探し求め続けてきた踊りの世界に対していただいたものですからね」
だが、かつて裸体で踊っていた頃の泯さんは、日本中から批判を受けた経験がある。パリに渡って成功し、やがて日本でも名声を得た。そんな自らを「逆輸入品」だと称する。
「思い切ったことを言うと、『評価なんてクソ食らえ!』と感じている自分もいます。踊りの「業界」に関してはアンチの姿勢でやってきましたからね。評価されるというのは、多数の支持者を得るということです。でもこの多数派の中に、自分の頭で考えている人がどれだけいるのかは怪しい。言葉がなかった時代はどうだったんでしょうね。その点、坂本さんはたった一人でも自分の考えをもって闘っていた。僕は心から尊敬しているんです」
1945年東京都生まれ。クラッシックバレエ、モダンダンスを学んだ後、独自のダンスや身体表現を追求。俳優としても活躍し、2025年の文化功労者に選ばれる。主な出演作に、映画『たそがれ清兵衛』『名付けようのない踊り』『PERFECT DAYS』『国宝』など多数。音楽家・坂本龍一のドキュメンタリー映画『Ryuichi Sakamoto: Diaries』では朗読を務めた。11月28日より全国公開。
映画『Ryuichi Sakamoto: Diaries』
© “Ryuichi Sakamoto: Diaries” Film Partners
2025年11月28日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほか全国公開
【あらすじ】
2023年3月に、この世を去った稀代の音楽家・坂本龍一。その最後の日々は、自身の日記に克明に綴られていた──。ガンに罹患して亡くなるまでの3年半にわたる闘病生活とその中で行われた創作活動。目にしたもの、耳にした音を多様な形式で記録し続けた本人の「日記」を軸に、遺族の全面協力のもと提供された貴重なプライベート映像やポートレートをひとつに束ね、その軌跡を辿ったドキュメンタリー映画が完成した。
【キャスト・スタッフ】
監督:大森健生
出演:坂本龍一
朗読:田中泯
製作:有吉伸人 飯田雅裕 鶴丸智康 The Estate of Ryuichi Sakamoto
プロデューサー:佐渡岳利 飯田雅裕
制作プロダクション:NHKエンタープライズ
配給:ハピネットファントム・スタジオ コムデシネマ・ジャポン