2026.04.10
最終更新日:2026.04.10

【高橋一生インタビュー】映画『脛擦りの森』|各地に伝わる不思議な伝承をアーカイブしていきたい

摩訶不思議なタイトルは、「すねこすりのもり」と読む。岡山に伝承される妖怪「すねこすり」をモチーフに描く、美しくも残酷な愛の物語だ。本作で高橋一生さんは、人里離れた森の奥深くで暮らす謎の男を演じている。作品のこと、怪異収集のこと、いろいろ話を聞いた。

日本的な怖さには、背中合わせに美しさがある

高橋一生

――本作は『岸辺露伴は動かない』シリーズでタッグを組む渡辺一貴監督が手がける初のオリジナル作品です。最初にお話をもらったとき、どういうことを考えました?

高橋 まず台本を読んで、とても興味深いなと思いました。というのも、物語を起承転結の構造にしていくために、どうしてもせりふの中に説明的な部分を入れないといけなくなることがあります。そのことはもちろんよく理解しているのですが、そういったものをあえて語らなくすることによって、人はどのくらい想像することができるのだろうか、ということをこの作品ではやろうとしていた。ある意味、『まんが日本昔ばなし』的な余白が台本から感じられたんです。


――『まんが日本昔ばなし』ですか?

高橋 はい。『まんが日本昔ばなし』の中でとても好きな話があって、「吉作落とし」という話なんですけれど、断崖絶壁に生えている岩茸を採っていた吉作が岩壁の途中にちょっとした休めるスペースを見つけて、そこに降りるんです。しばらく休憩して作業に戻ろうとしたら、命綱のツタが上にあがってしまっていて、どうやっても届かない。吉作の体重で伸びていたツタが、降りて軽くなったことで縮んでしまったんです。「助けてくれ」と叫んでも誰も助けに来ない。何日かたって吉作は朦朧とした頭で「鳥のように飛べないものだろうか」と考え、ついには飛び降りてしまう、という話です。


――怖い話ですね、、、

高橋一生 2

高橋 これを子供の頃に観て、「何の救いもない話だな」と思いましたが、そこには吉作しか見ることのできない景色があって、落下している最中に見た山が美しかった、というような描写があるんです。じゃあ、この話は何を伝えたいのかと考えたとき、もちろん訓戒めいたものはあるとして、それとともに、日本の幽玄とか怖さというものは、背中合わせに美しさがあるなと感じました。そのことを説明抜きで語れるんじゃないかと、『脛擦りの森』の台本を読んだときに思えましたし、何か美しいものとして映るんじゃないかなという期待や面白さがありました。


――一生さんは劇中で謎の男を演じています。特殊メイクを施し、動きもセリフもほとんどない役ですが、演じるうえで難しさはなかったのですか?

高橋 まず一貴監督と柘植伊佐夫(人物デザイン監修・衣裳デザイン)さんであるということと、梅沢壮一さんの特殊メイクを試したときに、「これはいける」という感覚がありました。毎回4時間ほどかけて僕とわからないぐらいまで特殊メイクをするので、それこそ能面をつけるような感じで、お芝居の表情がわからなくなってしまうのではないかと懸念していたんですけれど、それはまったくの杞憂で、むしろ表情筋のポイント、ポイントにくっつけてもらっているのでしっかりと動くんです。なので、お芝居するうえでの制約はまったくありませんでした。


――たしかにとても自然でした。

高橋 老人の人物造形や背景自体、物語の中で特に説明はされてないですけれど、おそらく地元の猟友会とかに入っていた人間で、あるとき森に迷い込んでしまった。着ているコートなどはきっと自分の前にそこに迷い込んでしまった人のもので、そういう人たちが過去に何人も連なっていて、あの場所が存在しているということが徐々にわかっていく。説明的な描写がなくても、そこにいる/あるだけで、物語が理解できるので、作品としても問題なく成立する自信はありました。

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15分の映画だったのが、完成したら60分になっていた

――撮影は実際に岡山県で行われたそうですが、ロケ地となった穴門山(あなとやま)神社や宇山洞(うやまどう)は本当に物語の中に迷い込んだような美しさと怖さがありました。

高橋 由緒ある場所ですから、よくぞ貸してくださったな、と思います。あの場所が持つ雰囲気というものは、おおよそ人間がつくれるものではありません。あのような場所で撮影ができたことでお芝居の説得力が上がりましたし、映画としての見え方も一段上がったと思います。現地の方々も本当によくしてくださって、個人的にもとても興味があったので、撮影の合間もずっと成り立ちや由来について話を聞いていました。本来だったら普段は中に入れない場所にも入らせていただいて、そのとんでもなさやありがたさを感じながら撮影していたら、あっという間に終わった感じです。とても贅沢な時間でした。

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――本作は『岸辺露伴は動かない』シリーズのスタッフが集結していて、あやかし、怪異といった部分にも親和性があります。「露伴」との差異、あるいは共通項といった部分は何か意識しましたか?

高橋 『岸辺露伴』のチームがつくっているということは事実ですし、売り出し方としては触れていく部分だろうなとは思っていましたが、観ていただけたらわかるように、まったく違ったものになっているので、僕自身は何か特に意識するようなことはありませんでした。そもそもこの作品はものすごく短かくて、最初は15分の作品だったんです。


――えっ、そんな短かったんですか?!

高橋 最初はそうで、撮影が始まる前に30分の尺になったと聞いて、そのつもりで撮っていたら完成したときに60分になっていて(笑)。ほとんどしゃべってないし、動いてないので、60分も持つのかなと思いましたけれど、試写を観て、まったく余計な心配でした。僕、実は自分の作品を観るのが苦手なんです。でも、これは家でループ再生したいなと思うぐらい好きでした。無理やりエクスパンドした感じはなくて、とてもいい時間が流れている。比べるのもあれですが、昔の映画って得体の知れない描写が入ったりするじゃないですか。わけのわからないスロー映像とか。でも、そこに何かすごく情緒を感じたり、狂気を感じたりして、僕は好きなんです。鈴木清順監督の『ツィゴイネルワイゼン』の最初の振り返りとかすごく怖いんです。けれど、そういうわけのわからないショットがあることが贅沢だし、そこに映画的な時間が流れるんだなと。薄暗く鬱蒼として、でも生命力にあふれた森というのは、あの時間軸とあの空間でなければ出せなかっただろうなと思います。

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人と怪異のつながりに昔から興味があった

――今回は岡山の「すねこすり」でしたが、それ以外にも日本の各地にさまざまな妖怪の伝承があります。ぜひシリーズ化を期待したいです!

高橋 それは面白そうですね。去年、NHKで台湾を舞台にした怪異ものの番組(『高橋一生、声を聴く』)をやらせてもらって、あれを日本でやりたいなとひそかに思っているんです。人が抱く怖さや恐怖というものの原初はどこから来ているのか。そういうことに個人的に興味があって。例えば、今回の『脛擦りの森』は、迷い家の話なんです。迷い家というのは、突然山の中に豪邸が現れて、家の中からご飯のいいにおいがして、でもそこのものをひとつでも食べたらもう戻れなくなるという話で、これは黄泉戸喫(よもつへぐい)といって、黄泉の国のものに手をつけてしまうともう現世に帰れなくなるという伝承でもあるんです。この手の話は結末が何パターンかあって、『まんが日本昔ばなし』でもたぶん4本ぐらいやっているはずですが、終わり方が違うんですよ。戻れなくなるというバッドエンディングもあれば、無事に戻ってきて、それからしばらくして川から流れてきたお椀を拾ったらそのお椀には必ず米が入るようになったというグッドエンディングもあります。そこにはたぶん人間の期待や希望なども込められつつ、何かもっと根源となるものがあるはずで、その根源は人がつくったのか、あるいは別の存在のものたちがつくったのか、そういったことが気になっちゃうともう止まらないんです(笑)。

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――すごいですね! 昔から興味があったんですか?

高橋 人と怪異のつながりのようなことは、子供の頃からとても興味がありました。そこに人間の本質が詰まっているような気がするので、いろいろな伝承をアーカイブしていくことをライフワークとしてやっていけたらいいですね。

高橋一生 7
シャツ¥47,300/サルト Tシャツ(ボーディ)¥28,600/アルファ PR パンツ(ブラームス)¥51,700/ワンダリズム 靴(フット・ザ・コーチャー)¥68,200/オーセンティック・シュー&コー
俳優
高橋一生

1980年生まれ。東京都出身。数多くの映画やドラマ、舞台などで活躍。近年の主な出演作に、映画『ロマンスドール』『スパイの妻』(ともに20年)、『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』(23年)、『岸辺露伴は動かない 懺悔室』(25年)、ドラマ「雪国 -SNOW COUNTRY-」(22年/BSプレミアム)、「岸辺露伴は動かない」(20年-24年/NHK)、「6秒間の軌跡 ~花火師・望月星太郎の憂鬱」(23年、24年/テレビ朝日系)、「ブラック・ジャック」(24年/テレビ朝日系)、「1972 渚の螢火」(25年/WOWOW)、「零日攻撃 ZERO DAY ATTACK」(25年/Prime Video)など。4月14日より主演ドラマ「リボーン ~最後のヒーロー~」(テレビ朝日系)の放送がスタート。5月1日より主演映画『ラプソディ・ラプソディ』が公開予定。

映画『脛擦りの森』
4月10日(金)よりTOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開

映画『脛擦りの森』

監督・脚本:渡辺一貴

出演:高橋一生、蒼戸虹子、黒崎煌代

配給:シンカ

人里から離れた深い森で、足に傷を負った若い男(黒崎煌代)が彷徨っていた。足元の植物は生い繁り、痛む足を一層重くする。進むべき道もわからず、疲労が限界に達しようとしていたその瞬間、若い男は女の歌声のような、美しい囁きのような声を耳にする。その声に誘われるように歩を進めた彼は、森の中に大きく口を開けた洞窟の先にある神社にたどり着く。この場所で暮らす謎の男(高橋一生)と、若く美しい妻・さゆり(蒼戸虹子)から傷の手当てを受けながら、若い男はこの場所で夢のような、時の止まったような時間を過ごす。いつしか、優しく美しくも謎に満ちたさゆりに少しずつ惹かれていくが、ある朝、彼は“ある光景”を目にする。

©『脛擦りの森』プロジェクト

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