カズオ・イシグロの同名原作を映画化した『遠い山なみの光』で主人公の悦子を演じた広瀬すずさん。この役を通じて振り返るデビュー当時の自分と、そこからの成長。

10年の俳優人生で変化した「芝居」との距離感

「10代の頃は直感を信じて演じていたけど、役をとらえきれずに悶々とすることもありました。ただ、年齢を重ねて経験や知識が増え、お芝居が生活の一部にフィットするようになると、表現の方向性がどんどんクリアになっていく感覚があって。いつからか、セリフを今までより自信をもって言えるようになったんです」

『海街diary』で日本映画界に鮮烈な印象を残した広瀬すずさんは、当時15歳だった。それから10年、いくつもの作品に出演してきた中には、当然のことでもあるが向き合い方がわからない役もあったのだという。
「この仕事を始めた当初は、正直お芝居にあまり興味がもてなかった。自分の感情じゃないのに人前で泣いたり叫んだりするなんて変なの、って思っていたんです…(笑)。でも、そんなときに観た二階堂ふみちゃんのお芝居に衝撃を受けて。私もこんなふうに演じてみたいと考えるようになりました」

広瀬さんが主演を務めた『遠い山なみの光』は「どこか憧れがある存在」と語る二階堂さんとの初共演作にもなった映画。原爆を経験し、戦後間もない長崎で一人の子を身ごもって生きる悦子という女性を演じている。

「この映画自体が多様な解釈を許す物語で、演じる俳優たちにとってもお互いの役の感情を探りながら、一つ一つのシーンに向き合っていく感覚があって。こうした作品は、自分の目指す芝居の方向性と感情が明確にひもづいていないと、意図しない方向にとらえられたときにうろたえてしまうんです。その点、最近は突っ走らずに監督や現場のスタッフさんに助けを求められるようになったし、これまでの演技経験が判断要素を増やしてくれてもいる。直感を信じるときと、立ち止まって考えるとき。その選択に今は自信があるんです」
1998年静岡県生まれ。2012年に「Seventeen」の専属モデルとしてデビューし、ドラマ『幽かな彼女』で俳優活動を開始。’15年に映画『海街diary』での演技が高く評価され、映画賞で新人賞を総なめに。主な出演作に映画『ちはやふる』シリーズ、『怒り』『片思い世界』、NHK連続テレビ小説『なつぞら』など。『遠い山なみの光』が9月5日から全国公開。
映画『遠い山なみの光』

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2025年9月5日(金)TOHOシネマズ日比谷他 全国ロードショー
配給:ギャガ
【あらすじ】
日本人の母とイギリス人の父を持ち、大学を中退して作家を目指すニキ。彼女は、戦後長崎から渡英してきた母悦子の半生を作品にしたいと考える。娘に乞われ、口を閉ざしてきた過の記憶を語り始める悦子。それは、戦後復興期の活気溢れる長崎で出会った、佐知子という女性とその幼い娘と過ごしたひと夏の思い出だった。初めて聞く母の話に心揺さぶられるニキ。だが、何かがおかしい。彼女は悦子の語る物語に秘められた<嘘>に気付き始め、やがて思いがけない真実にたどり着く──。
【キャスト・スタッフ】
原作:カズオ・イシグロ/小野寺健訳『遠い山なみの光』(ハヤカワ文庫)
監督・脚本・編集:石川 慶
出演:広瀬すず 二階堂ふみ 吉田 羊 カミラ・アイコ 柴田理恵 渡辺大知 鈴木碧桜 松下洸平/三浦友和