
乃木坂46を卒業後、俳優としてさらに活躍の場を広げている山下美月さん。最新出演作である10月3日公開の映画『火喰鳥を、喰う』ではある秘密を抱えている繊細な女性、久喜夕里子を演じている。
水上恒司さんと宮舘涼太さんの演技に、流れるように身を任せた

――映画『火喰鳥を、喰う』では、主人公・久喜雄司の妻、夕里子を演じています。ある秘密を抱えている繊細な夕里子を演じるにあたって、山下さんが意識したことを教えてください。
山下 この作品に関しては、水上恒司さんが演じる雄司と宮舘涼太さんが演じる超常現象専門家の北斗総一郎、2人の引力が強いんです。夕里子は、2人のアクションに引っ張られる役なのかなって。もちろん彼女の中で思っていることはあるものの、あえて出し過ぎない品の良さを意識しました。現場でも「こう演じよう」と決め込まずに、2人のお芝居を受けて、流れに身を任せるように演じていました。
――本木克英監督から細かい指示はありましたか?
山下 「こうしてほしい」「ああしてほしい」というオーダーはほとんどなくて。自分から「大丈夫でした?」と聞きに行くと、「それでいいんだよ」と肯定してくださるんです(笑)。本木監督をはじめ、スタッフのみなさんを信頼して撮影した結果、素晴らしい作品に仕上がりました。
「普通」がわからないところが、この仕事の面白さ

――原作では夕里子のキャラクターがより明確に書かれていましたが、「クールに見えるけど、気遣いができて、お笑いが好き」はまさに山下さんだな、と思いました。
山下 確かに(笑)。顔から受ける印象で、最初は「冷たそう」と思われることもありますからね。それと、夕里子の「芯はあるけど、強い想いを持たないようにしている」ところは共感できるというか、似ているのかもしれません。強い想いを持てば持つほど、人ってツラくなると思うんです。ただ、夕里子は何も考えていないかといえばそうではなくて。「雄司を支えたい」という気持ちはもちろん、北斗に対する気持ちもゼロではないかもしれない。観る方が解釈できる余白を残せるように演じました。
――「気遣い」は乃木坂46に在籍していた頃から徹底していましたよね。ここは会釈でいいだろうというシチュエーションでも、しっかり挨拶されて。
山下 そうでした⁉
――そうでしたよ(笑)。グループを卒業してからも「気遣い」は意識していますか?
山下 「普通」がわからないんですよ。芸能界って「普通」の基準が明確ではないからこそ、「自分はまわりと比べてちゃんとできているのだろうか」と考えて、「わからないけど、しっかりしなきゃ」というスタンスになりました。「普通」はずっとわからないだろうけど、そこが大変だし、この仕事の面白さでもあるのかなと思ってます。
幽霊もUFOも、信じることができる大人でありたい

――作品の中で、人の思念が込められた「籠り」という概念が出てきます。山下さんは「籠り」はあると思いますか?
山下 あるんじゃないでしょうか。私は霊感があるわけではないし、超常現象に遭遇したことはないけど、幽霊やUFOの存在を否定したくないし、信じることができる大人でありたいんです。空想する気持ちがあるからファンタジーのある作品を作ることができると思うので、エンタメの世界に生きているからこそ信じたいなって。それと、この作品では「籠り」が超常現象として描かれていますが、普通の社会においても重なることがあると感じます。世の中で起きる事件は、人の気持ちの強さが理由であることが多いと思うんです。怒りや悔しさで行動してしまう。そのエネルギーは、人間対人間の関係性が生み出しているのかな、と思います。
映画館を出た後も楽しんでほしい

――個人的に、どこから現実なのかわからなくなる描写が『火喰鳥を、喰う』の面白さだと思いました。山下さんが思う、この作品の楽しみ方を教えてください。
山下 ひとつの現実ともうひとつの現実が存在しているところは『火喰鳥を、喰う』の面白さだと思います。だからこそ、最後まで観て「こうだろうな」と結論づけることのないように演じました。みなさんに委ねたくて。ひとりで考えるのもいいし、友だちと話してもいいし、映画館を出た後も『火喰鳥を、喰う』を楽しんでほしいです。
インタビュー後編(9月27日公開予定)に続く。
1999年7月26日生まれ。2016年にアイドルグループ「乃木坂46」3期生オーディションに合格。中心メンバーとして活動し、2024年5月に東京ドームでの卒業コンサートをもって同グループを卒業。グループ在籍時より数々のドラマ・映画に出演し、俳優としても活躍。主な出演作にNHK連続テレビ小説『舞いあがれ!』、『下剋上球児』、『Eye Love You』など。
2025年は『山田くんとLv999の恋をする』に出演(作間龍斗とW主演)したほか、『名探偵コナン 隻眼の残像』にもゲスト声優として出演。映画『愚か者の身分』の公開が控えている。またファッション雑誌「CanCam」の専属モデルも務めている。
『火喰鳥を、喰う』
信州で暮らす久喜雄司(水上恒司)と妻の夕里子(山下美月)はある日、一家代々の墓石から、太平洋戦争で戦死した先祖・久喜貞市(小野塚勇人)の名が削られていることを知る。時を同じくして、地元紙「信州タイムス」の記者・与沢一香(森田望智)とカメラマン・玄田誠(カトウシンスケ)が、生前の貞市が戦地ニューギニア島で書いたという日記を携え久喜家を訪れる。その日記に綴られていたのは、戦地での壮絶な日々と、何としてでも生きようとする貞市の異様なまでの執念だった――。
監督:本木克英
キャスト:水上恒司 山下美月 森田望智 吉澤健 豊田裕大 麻生祐未 宮舘涼太
©︎2025「火喰鳥を、喰う」製作委員会