『ザ・スタジオ』

セス・ローゲン (1982年生まれ)
ハリウッドの中心で愛を叫ぶ、下ネタ男
ハリウッドの映画スタジオの社長に突如指名されてしまった生粋の映画オタクの、映画愛と経営判断の間で揺れ動く悲喜こもごもな日々を描いたコメディ・ドラマ『ザ・スタジオ』は、2025年3月にApple TV+で配信されるや否や、ハリウッドに“笑撃”と物議を巻き起こした。なぜなら、劇中のセリフの数々は、映画業界人が日常的に口にしているやりとりそのまんまだったからだ。マーティン・スコセッシやロン・ハワードといった大物監督が、本人役で登場していることも、リアリティに拍車をかけた。
この怪作で監督・脚本・製作を兼ね、主役のマットを演じていたのがセス・ローゲンだ。1982年生まれだから、今年で43歳。確かに実力主義の米国なら経営者になってもおかしくはない年齢だけど、まさかあのセスが会社のエグゼクティブを演じる日がくるとは。そう思ってしまうのも、彼が肩書や権威とは無縁の“下ネタ道”を歩み続けてきたからだ。マリファナ漬けの実生活を反映した『スモーキング・ハイ』をはじめ、恋人のシャーリーズ・セロンをテレビで観ながらオカズにしてしまうロマコメ『ロング・ショット 僕と彼女のありえない恋』、そして食材同士が乱交パーティを繰り広げるアニメ『ソーセージ・パーティー』まで、彼がかかわった作品はどれも過激で下品そのもの。しかしいつもの調子で北朝鮮を茶化した『The Interview』は国際問題にまで発展。加えて自身の加齢が徐々に彼に主演映画を作りにくくしていったのも確かだった。
アウトサイダーではなく社長を演じた『ザ・スタジオ』は、そんなセスにとって起死回生の一打であり、ハリウッドへの毒気に満ちたラブレターでもある。過激なギャグに加えて、今回はセスのファッションにも注目が集まった。黒やネイビーといった男子の定番色を封印し、ベージュのスーツに花柄シャツを合わせるなど、“攻めた”装いがクール。相変わらずのぽっちゃり体型だし、白髪や薄毛も目立つのだけど何だかカッコいい。そう思わせるのも、セスが加齢に抗うのではなく、それを受け入れ成熟したからだろう――ただし下品さはそのままで。
『ザ・スタジオ』
監督・出演/セス・ローゲン
出演/キャサリン・オハラ、アイク・バリンホルツ、キャスリン・ハーンほか
老舗映画スタジオ「コンチネンタル」の社長に急遽就任したマットと仲間たちが巻き起こす騒動を描いた業界コメディ・ドラマ。30分ワンカットの驚異的な長回し、ミッドセンチュリー・モダン風セットデザインなど、映像美も話題となった。Apple TV+で配信中。
文筆家。映画、音楽雑誌など複数の媒体で執筆。大和田俊之氏との共著『文化系のためのヒップホップ入門1~3』(アルテスパブリッシング)が絶賛発売中。