『ブゴニア』
ジェシー・プレモンス(1988年生まれ)
格差婚から、まさかの名優へ
『チアーズ!』や『マリー・アントワネット』で知られる人気女優キルスティン・ダンストが、2017年にジェシー・プレモンスとゴールインしたとき、周囲は少なからず驚いた。キルスティンといえば、『スパイダーマン』三部作で共演したトビー・マグワイアやジェイク・ギレンホールといったイケメン俳優たちとの華麗な交際遍歴で知られていたスターである。一方のプレモンスは、マット・デイモン似の容貌を売りに『フライデー・ナイト・ライツ』や『ブレイキング・バッド』といった人気ドラマに出演していたものの、成長とともにルックスはやや微妙な方向へ変化。キルスティンとの交際のきっかけとなったドラマ『FARGO/ファーゴ』の頃には、イケメンとは言い難い風貌になっていた。
しかし子役時代からあまたの名優と共演してきたキルスティンは、ジェシーの内に秘められた輝きを見いだしたのだろう。自らの出演が先に決まっていた『パワー・オブ・ザ・ドッグ』で、夫役の俳優がスケジュールの都合で降板すると、代役としてプレモンスを強く推したのだ。妻の期待に応えるかのように、主演のベネディクト・カンバーバッチと互角に渡り合ったプレモンスの演技は絶賛を浴び、以降、クセ者監督たちから次々とラブコールが寄せられるようになる。『憐れみの3章』で彼を主演に抜擢し、カンヌ国際映画祭の男優賞受賞へと導いたヨルゴス・ランティモスも、その一人だ。両者のコラボは、公開中の『ブゴニア』でも健在である。
同作でプレモンスが演じるのは、エマ・ストーン扮する製薬会社の敏腕女性CEOを、アンドロメダ星雲から地球侵略に来た宇宙人だと信じ込んで、誘拐・監禁してしまう男。いわば「インターネットに真実がある」系の陰謀論者なのだけど、現実にいたらただ迷惑なだけの人物を、これほどおかしく、哀しく演じられる俳優はほかにいない。美しく才能あふれるストーンとの演技合戦は、終盤で思いがけないサプライズを用意している。それは(妻のキルスティンを除けば)誰も名優になるなんて思っていなかったプレモンスだからこそ起こし得た、一つの奇跡なのかもしれない。
『ブゴニア』
監督/ヨルゴス・ランティモス
出演/エマ・ストーン、ジェシー・プレモンス、エイダン・デルビスほか
ギリシャの鬼才監督ランティモスが、韓国産SFカルト映画『地球を守れ!』のリメイクに挑戦。才能と富に恵まれた美貌のCEOと、彼女を宇宙人と信じ込んで誘拐した“何も持たざる者”の会話劇に終始するかと思いきや、ラストには驚きの展開が待っている。
文筆家。映画、音楽雑誌など複数の媒体で執筆。大和田俊之氏との共著『文化系のためのヒップホップ入門1~3』(アルテスパブリッシング)が絶賛発売中。