『ワン・バトル・アフター・アナザー』
レオナルド・ディカプリオ(1974年生まれ)
アイドルからブランドへ
かつてアメリカを騒がせた革命グループで“ロケットマン”の異名をとった活動家ボブ。そんな彼は妻の逮捕をきっかけに足を洗い、娘とともにひっそり暮らしていた。だが宿敵ロックジョー警視が異様な執念でその居場所を突き止め、今度は娘を捕らえようとする。追い詰められたボブが選んだ行動とは――。
天才監督ポール・トーマス・アンダーソン(以下、PTA)が「ボブ役は彼しかいない」とレオナルド・ディカプリオ(以下、レオ)を主演に迎えた最新作『ワン・バトル・アフター・アナザー』をすでに観たという人は驚いたにちがいない。ロケットマンが華々しく復活するかと思いきや、ブランクが長すぎて普通のおじさんになってしまったボブはオロオロするばかり。だが、だからこそレオが主演なのだ。今やハリウッドの主演クラスは、腹筋バキバキのイケメン俳優ばかり。そんな中、ビール腹を揺らして醜態をさらしているだけなのに、観客の目を惹きつけて離さないなんて離れ業をやってのけるスターなんて、レオ以外いないのだから。
思えば遠くまで来たものだ。そもそも彼は『ロミオ+ジュリエット』や『タイタニック』で絶世の美少年として騒がれたスーパーアイドルだった。だが周囲にチヤホヤされるあまり、PTAの出世作『ブギーナイツ』の主演を友人だったマーク・ウォールバーグに譲るなど、作品選びでは失敗続き。顔立ちが大人びるにつれ、アイドル人気も徐々に低下していってしまった。
普通なら美貌を維持してファンを呼び戻そうとするだろう。だがレオは加齢に逆らうことは諦める一方、優れた監督による面白い映画に出ることだけに全力を注ぎ続けた。その結果、「奴の出演作なら間違いない」という“信頼のブランド”を築き上げたのである。PTAが空前の製作費を投じた大作『ワン・バトル・アフター・アナザー』でレオを主演に抜擢したのも、この確かな信頼があったからだ。
あとは娘ほど年の離れたガールフレンドをとっかえひっかえする悪い癖さえ封印できれば、ディカプリオ・ブランドは“信頼”から“不朽”へと昇華すると思うのだけど。
『ワン・バトル・アフター・アナザー』
監督:ポール・トーマス・アンダーソン
出演:レオナルド・ディカプリオ、ショーン・ペン、ベニチオ・デル・トロ
ポール・トーマス・アンダーソンとレオナルド・ディカプリオがタッグを組んだポリティカル・アクション・コメディ。移民への敵視や白人至上主義など、米国の“恐るべき現在”を真空パックしたかのような作りも相まって、来年のオスカー最有力候補との噂も。
文筆家。映画、音楽雑誌など複数の媒体で執筆。大和田俊之氏との共著『文化系のためのヒップホップ入門1~3』(アルテスパブリッシング)が絶賛発売中。