『ピースメイカー シーズン2』

ジョン・シナ (1977年生まれ)
史上最高のレスラーは二番煎じが大嫌い
「寝る間もない忙しさ」という言葉は、まるでジョン・シナのためにあるかのようだ。何しろ昨年から主演映画が3本も発表され、さらに主演ドラマ『ピースメイカー シーズン2』の配信まで始まった。しかも本人は年末のプロレスラー引退に向け、WWEのリングに最後まで全力で立ち続けるというのだから。俳優としてこれほど多忙を極めながら、なぜシナはプロレスにこだわり続けたのだろうか。その陰には、同じWWE出身でありながら、ハリウッドの頂点に立った“ザ・ロック”ことドウェイン・ジョンソンの存在があったのかもしれない。
そもそもシナは、ジョンソンが俳優業にシフトしてできた穴を埋めるように、プロレス界のスターになった男だった。世界王座獲得回数は史上最多の17回。ジョンソンがリングに一時復帰した際には「プロレスは遊びでやるもんじゃない」と敵意剝き出しだったという。しかし自らもハリウッドに進出したとき、彼はジョンソンの偉大さに気づいた。プロレスでは喝采を浴びた“大口たたきで暴力的なキャラ”も映画の観客には引かれるだけ。俳優として愛されるためには、真面目さや不器用さといった人間味を打ち出す必要がある。それを完璧にやってのけていたのが、ほかならぬジョンソンだった。シナも同じ路線を試みたものの、どうしても二番煎じに見えてしまう――。そんな彼の転機となったのが『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結』から演じ始めたDCコミックのダークヒーロー、ピースメイカー役である。一見、暴力的な最低男だが、次第に殺人マシーンとして育てられ、それが間違いと気づきながら虚勢を張って生きていくしかなかった人物であることが明らかになっていく。この役を通じてシナは、プロレスのキャラを生かしながら、哀愁をまとった個性派スターへと生まれ変わったのだ。
近年はジョンソンとリングで共闘するなど、すっかり人間が丸くなったシナ。その一方で、ファンから薄毛をヤジられ続けたことを気にして増毛手術を受けたというエピソードもある。これだけはジョンソンの二番煎じでいいから、潔くスキンヘッドにしちゃえばよかったのに!
『ピースメイカー シーズン2』
監督/ジェームズ・ガンほか
出演/ジョン・シナ、ダニエル・ブルックス、ジェニファー・ホランド
シーズン1で世界の危機を救いながらも、相変わらず冴えない日々を送っていた最低男に、またも驚くべき事件が降りかかる。同じくジェームズ・ガンが監督した大ヒット映画『スーパーマン』と同一ユニバースにある世界観にも注目だ。U-NEXTにて独占配信中。
文筆家。映画、音楽雑誌など複数の媒体で執筆。大和田俊之氏との共著『文化系のためのヒップホップ入門1~3』(アルテスパブリッシング)が絶賛発売中。