動画配信サービスでドラマを楽しむ人が増えている。ハマってしまい、朝まで観てしまうという人も…。そんな魅力あふれる作品の中からおすすめの1本を紹介する。
『悪縁』

悪人同士が織りなす絶望のパズル
韓国発のダークな犯罪サスペンス
読んだ後に「イヤ〜な気分」になるようなミステリー小説を通称「イヤミス」というが、『悪縁(アギョン)』は「ドラマ版イヤミス」と呼ぶにふさわしい作品かもしれない。タイトルが示すとおり、人と人とが不幸な偶然によって結びつき、その出会いがさらなる災いを巻き起こす。登場人物のほとんどが同情の余地がない悪人というのも珍しいが、とにかく最悪なことが次々連鎖する異様な物語なのだ。
闇金業者から返済を迫られ保険金目当てに実の父親の殺害をもくろむジェヨン。ジェヨンから交通事故に偽装した父殺しを依頼される元マフィアのギルリョン。一方、山道をドライブ中、飲酒運転で人を轢いてしまい必死に事故を隠蔽しようとする漢方医サンフン。その事故を目撃し、サンフンを脅迫して大金を要求する男ボムジュン。さらには学生時代に起こった出来事からトラウマに苦しむ医師の女性ジュヨンと彼女が治療にあたる廃ビル火災の謎めいた生存者も登場し、人物同士の意外な関係性や事件の複雑な全体像が徐々に明らかになってくる。
例えばジェヨンの残忍な企みで一度轢き殺されたはずの父親が、遠く離れた場所で起こった別の交通事故で再び「死体」として現れたりする。観ているこちらは当然「えっ! なんで⁉」となるが、時間軸を前後に移動しながら示される驚くべき真相にどんどん夢中になっていく。あるエピソードの断片が、別のエピソードの空白の部分にピタッとハマるパズルのような快感がこのドラマには確かにある。そして物事にも人間にも、表面的な見かけだけではわからぬ「本当の顔」があるのだという恐ろしさこそ、あくまでエンターテインメントである本作に隠された裏の主題なのではないだろうか。
全体のトーンはダークかつ陰惨ながら、出てくる悪人たちにまともな人間性や良心が完全に欠如しているゆえに、一切の躊躇なく悪事を行う彼らに対し、嫌悪感を通り越して思わず笑ってしまうような瞬間も多い。ひと言で言えば「因果応報」をこれでもかと描く強烈なサスペンスでありつつ、本作には人間の愚かさを冷めた目で見つめる達観した視点も感じる。
『悪縁』
監督/イ・イルヒョン
出演/パク・ヘス、シン・ミナ、イ・ヒジュン、キム・ソンギュン
逃れられない因果に巻き込まれた男女の運命を描くクライム・サスペンス。投資に失敗した男が保険金殺人をもくろむが、思わぬ目撃者が現れる。原作は韓国発のウェブトゥーン。出演は『イカゲーム』のパク・ヘス。Netflixシリーズ『悪縁』全6話独占配信中。
編集者・ライター。ネット配信作品のレビューサイト「ShortCuts」などで海外ドラマの紹介記事を執筆中。TBSラジオ「アフター6 ジャンクション」出演。