2025.05.11
最終更新日:2025.05.11

『ランドマン』|石油業界のプロが問題解決に奮闘。タフな世界を描く現代ウエスタン【今からでも間に合うネットドラマ|宇都宮秀幸】

動画配信サービスでドラマを楽しむ人が増えている。ハマってしまい、朝まで観てしまうという人も…。そんな魅力あふれる作品の中からおすすめの1本を紹介する。

『ランドマン』

『ランドマン』
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石油業界のプロが問題解決に奮闘
タフな世界を描く現代ウエスタン

 ランドマンとは聞き慣れない言葉だが、石油業界のあらゆる事柄に精通し、さまざまなトラブルを解決するプロのことを指す。主人公は石油会社のベテラン社員=ランドマンとして、テキサス州西部における油田開発の陣頭指揮を執るトミー。ボスでもある億万長者の経営者と、過酷な環境下で働く現場作業員との間で調整役となり、同時に地元の麻薬カルテルとも命がけでやりあわなければいけない。テンガロンハットにカウボーイブーツというトミーのいでたちからも連想するとおり、ランドマンの世界はいわば「現代の西部劇」だ。時に無法者を相手に一歩も引かないトミーの武器は拳銃やライフルではなく、豊富な知識に裏打ちされた交渉力と度胸である。スマートなビジネス界とは真逆の、荒っぽくて常に危険と隣り合わせのランドマンの日常にまずは強烈に引きつけられる。

 石油は言うまでもなく現代人の生活になくてはならない資源である一方、エコが提唱される昨今なにかと問題視される存在だ。だがたとえガソリン車に乗らなくても、あらゆる日用品の材料などで石油の恩恵を受けていない人などいない。作中で石油産業を批判する声に真っ向から反論するトミーの本音は痛快でもある。

 本作は石油にかかわる人々の軋轢を描きつつ、トミーと彼の元妻や子どもたちとの関係に焦点を当てたファミリードラマでもある。特に安定した道を捨て父と同じ業界で一人前になろうと苦闘する息子クーパーの物語は魅力的。前時代的なマッチョイズムが支配する石油業界で、現代の内向的な若者であるクーパーが生き抜こうとする姿は、タフな主人公とは対照的でドラマに厚みをもたらしている。クーパーのほかにも、トミーと敵対し石油会社の男たちを正論でやり込める女性弁護士の存在など、本作の背景には旧態依然とした男社会の倫理と変化を求める新しい力との価値観の激突がある。製作総指揮のテイラー・シェリダンはケビン・コスナー主演の異色ウエスタン『イエローストーン』など男くさい作品を手がけてきた才人だが、本作は少し違った角度から「西部」を描いた意欲作である。

『ランドマン』

監督/テイラー・シェリダンほか
出演/ビリー・ボブ・ソーントン、アリ・ラーター

テキサス州西部の町を舞台に、石油産業にかかわる人々の関係や対立を描く。主演は『バーバー』の名優ビリー・ボブ・ソーントン。製作総指揮に『ボーダーライン』の脚本で知られるテイラー・シェリダン。『ランドマン』Prime Video「Paramount+」にて全10話配信中。

宇都宮秀幸

編集者・ライター。ネット配信作品のレビューサイト「ShortCuts」などで海外ドラマの紹介記事を執筆中。TBSラジオ「アフター6 ジャンクション」出演。

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