動画配信サービスでドラマを楽しむ人が増えている。ハマってしまい、朝まで観てしまうという人も…。そんな魅力あふれる作品の中からおすすめの1本を紹介する。
『フレンズ&ネイバーズ』

盗みのターゲットは富裕層の財産
中年男の葛藤を描く犯罪コメディ
ごく普通の人生を送る中年男がある日を境に犯罪の世界に足を踏み入れていく、というプロットは名作ドラマ『ブレイキング・バッド』を思わせる。本作の主人公は、出世街道を突き進み豪邸と幸福な家族を手に入れたヘッジファンド・マネージャーのクープ。だがそんな生活は一転、妻には浮気の果てに離婚され、さらには突然の解雇により職も失ってしまう。自暴自棄になった彼は、なんと裕福な隣人たちの邸宅に侵入し盗みを働き始める。
『ブレイキング・バッド』の主人公が麻薬製造に手を出す理由は、余命わずかな自分が残された家族に遺産を残すためという切実なものだったが、クープの窃盗の動機は少し意味合いが違う。富裕層のコミュニティの一員であるクープは、収入が絶たれているというのに、これまでの贅沢なライフスタイルを変えようとしない。家族や友人に対する実に表面的な見栄やプライドこそが、彼を犯罪に向かわせているようにも見える。地味でも堅実な職を得て、生活水準を落として暮らすという選択肢は彼の中にはないのだ。
盗難の対象となるのは、金持ち連中がため込んだ高級時計、アクセサリー、絵画など。盗みの場面では、ご丁寧にそれらの品々のリアルな市場価格まで画面に表示されるのがなんともおかしい。本作には、虚栄心に満ちたリッチな人種を冷ややかに笑うような視点がある。そしてまたクープ自身も、盗みを続け金持ちの生活を裏側から見ることで、皮肉にもこれまでの自分の人生を相対化して見つめ直すことになるのだ。果たして自分が本当に欲しかったものは何だったのか?と。
すでにお気づきのように、このドラマの主題はいわゆる「ミドルエイジ・クライシス(中年の危機)」であることは間違いない。過去への後悔や将来に対する不安、虚無感、老いつつある自分への戸惑い。中年男性特有のそうした気分が、一見軽いタッチの本作には静かに漂っている。やがて追い詰められていくクープが、最後にたどり着く答えとは何か。主人公に近い年代の筆者には他人事とは思えず、一気見するほど夢中になってしまったドラマであることを告白しておく。
『フレンズ&ネイバーズ』
監督/ジョナサン・トロッパーほか
出演/ジョン・ハム、アマンダ・ピート、オリヴィア・マン
離婚と失職を経験した金融マンが、裕福な隣人から盗みを働くブラック・コメディ犯罪ドラマ。盗難をめぐるサスペンスの一方、主人公と家族との関係の変化が描かれていく。主演は『マッドメン』のジョン・ハム。AppleTV +『フレンズ&ネイバーズ』全9話配信中。
編集者・ライター。約5年半にわたり、このコラムを担当させていただきましたが、今回が最終回。ネットドラマの面白さを少しでもお伝えできていたら光栄です。ありがとうございました!