2025.12.20
最終更新日:2025.12.20

『ブルシット・ジョブ――クソどうでもいい仕事の理論』|最もつらい仕事とはどんなものなのか?【BOOKレビュー 働くを再設計する|読書猿】

『ブルシット・ジョブ――クソどうでもいい仕事の理論』

『ブルシット・ジョブ――クソどうでもいい仕事の理論』

最もつらい仕事とは
どんなものなのか?

 何が最もつらい仕事であるかは古代ギリシャの時代からわかっている。シーシュポスの労働、何の成果も得られない無意味な仕事こそ、それだ。そうした無意味な仕事は現代もある。いや職場は今もそんな仕事で満ちている。

 デヴィッド・グレーバーは、役に立たないことが自覚されながらも続けられる仕事を「ブルシット・ジョブ」と呼び、これを5つに分類する。「取り巻き(flunkies)」は上司や顧客の権威を見せつけるためだけの仕事、「脅し屋(goons)」は相手を無理に動かすためだけに存在する。「尻ぬぐい(duct tapers)」はシステムや組織の欠陥を人力で補完し、「書類穴埋め人(box tickers)」は意味のない書類や報告書を作り続ける。そして、「タスクマスター(taskmasters)」は管理や監督だけが存在意義という仕事だ。これらを知れば、自分の仕事の「無意味さ」が冷徹なほどはっきり見えてくる。

 ブルシット・ジョブがあふれるのはホワイトカラーのオフィスだけではない。ものづくりの城であるはずの町工場にも、何も生み出さない「ペーパーワーク地獄」が押し寄せる。ISOの品質認証取得をきっかけに、大量のチェックシートや無意味なハンコ作業が製造現場を圧迫する。「品質のためのルール」が、いつしか「ルールのための品質」にすり替わる。

 それがサラリーマンだ、給料は我慢の対価だ、と諦めるわれわれにグレーバーは首を振る。そうじゃない。無意味さがわれわれを苦しめるのなら、目指すべきは「意味の再発見」だ。自分の仕事が《誰》に(ここが重要)、どんな価値を生んでいるかを問い直し、それを明確に示すこと。こうして取り戻した「意味」こそ、無意味な作業を削ぎ落とすための交渉材料となる。

 仕事とは本来、社会や他者にとって意味のある貢献であり、報酬はその対価である。「もし無意味な仕事を機械が置き換えるのなら何が残るのか」という問いは、AIの発展によって、かつてなく現実味を帯びている。私たちの未来に残るべき仕事とは何か、そして人間が本当に価値を見いだす仕事とは何かを深く考えさせられる。

『ブルシット・ジョブ――クソどうでもいい仕事の理論』

デヴィッド・グレーバー著
酒井隆史・芳賀達彦・森田和樹訳
岩波書店 ¥4,070

『ブルシット・ジョブ――クソどうでもいい仕事の理論』は、人類学者デヴィッド・グレーバーが現代社会に蔓延する無意味な仕事の構造と影響を分析した著作。ブルシット・ジョブの定義や種類、精神的暴力、社会的背景を論じ、労働観と社会制度を問う文化的ムーブメントとして注目を集め、2018年刊行の原著、2020年刊行の邦訳ともに学術書では異例のベストセラーとなった。

読書猿

正体不明の読書家。著者に『アイデア大全』『問題解決大全』(ともにフォレスト出版)、『独学大全』(ダイヤモンド社)、『苦手な読書が好きになる! ゼロからの読書教室』(NHK出版)などがある。

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