2025.09.09
最終更新日:2025.09.09

『アンソロジーたまご』|なぜ? あの形にみんなが癒やされるのだろう【BOOKレビュー 未知への扉|嶋 浩一郎】

まだ知らない体験や世界を読書は教えてくれる。嶋浩一郎さんの薦める今月の一冊は?

『アンソロジーたまご』

『アンソロジーたまご』

なぜ? あの形に
みんなが癒やされるのだろう

 今回で当コーナーが終了ということで、終わりの始まりを予感させる象徴ともいえる「たまご」の本を取り上げます。

 そう。みんな大好き、たまごです! 目玉焼き、オムライス、卵かけご飯、オムレツ、カルボナーラ、親子丼、月見そば、たまご料理はとにかくみんなが大好き、食べてる人はみんな幸せそうです。

 巣から転がり落ちないためにあの楕円の形になったというたまご。なぜだか見る人をホッコリさせてくれます。インスタでも「world record egg」というただの卵の写真が物凄い数の「いいね」を集めているってTai Tanさんと玉置周啓さんのポッドキャスト「奇奇怪怪」の本にも書いてありました。

 もちろん、僕もたまごが大好き。なかでも目がないのがウフマヨ。ゆで卵をマヨネーズで味付けしただけですが、カフェやレストランで見かけたら必ずオーダー。単純なレシピほど調理の仕方によって味が全く変わるから料理は面白いですね。ちなみに最近食べたウフマヨの美味しかった店は長野県千曲市のカフェ「the heavy moon」さん。赤ワインといただきました。

 あ、自分の話だけで終わってしまいそう。今回選んだのは、『アンソロジーたまご』。たまご料理について作家達が綴ったエッセイが集められています。村上春樹さんはさすがのこだわりで、メンターと仰ぐ帝国ホテルのシェフだった故・村上信夫さん譲りのフライパンをオムレツ専用に馴染ませる方法を教えてくれます。面白かったのはオムレツをつくる時、聴きたいのはシューベルトの『アルペジオーネ・ソナタ』なんだとか。『ねじまき鳥クロニクル』の主人公がパスタを茹でる時FMでロッシーニの『泥棒かささぎ』を聴くシーンがあるのですが、このシーンを読んでからパスタを茹でる時にロッシーニのCDをかけていますが、プラシーボ効果ならぬ、食通だったロッシーニ効果でしょうか、なんとなくパスタの出来具合もいい感じです。そんなわけでこれからオムレツをつくる時はシューベルトでいってみます。

『アンソロジーたまご』

杉田淳子選
主婦と生活社 ¥1,870

吉本隆明は子どもの頃ゆで卵が贅沢品で、大人になって結婚した時、奥さんに思う存分ゆで卵を食べたいと告白し江の島に大量のゆで卵を持って出かけたなんて思い出話など、作家とたまご料理の思わず笑ってしまうエピソード満載のアンソロジー。それにしても奥さん偉い! 片岡義男、森茉莉など37人のエッセイを収録。スピン(紐のしおり)の色がたまごの黄身を彷彿させる黄色なのも気が利いています。

嶋 浩一郎

1968年生まれ。博報堂ケトルクリエイティブディレクター、編集者。本屋B&Bの運営にもかかわる。著書に『「あたりまえ」のつくり方』『アイデアはあさっての方向からやってくる』『企画力』など多数。

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