2025.12.22
最終更新日:2025.12.22

【アンディ・ウォーホル】AIの時代に人間だからこそ創れる芸術とは?【明日話したくなるアートの小噺/筧菜奈子】

AIの時代に人間だからこそ創れる芸術とは?

アンディ・ウォーホル イラスト

 AIが絵を描き、音楽をつくる時代に、芸術は人間の仕事であり続けるのか。この問いは今、多くの作家を悩ませている。そして半世紀以上前に、この問いを先取りしていた作家がいた。アンディ・ウォーホルだ。彼は、他者のイメージを取り込み、加工、複製するという、まるで現代のAIを予見したような制作を行った。

 1928年、ウクライナ系移民の子として生まれたウォーホルは、商業イラストレーターとして成功した後、30代で芸術家に転身する。キャンベル・スープ缶やマリリン・モンローなど、アメリカの日常にあふれるイメージを、くっきりとした線と鮮烈な色彩で加工し、無数に刷り出した。

 アトリエ〈ザ・ファクトリー〉は銀色に統一され、作品は工業製品のように生産された。他者が作品を刷ることもあったし、アイデアも友人から買った。創造の「個性」を消し去るその姿勢は、AIが他者のイメージを学習して生成する姿に重なる。

 自らの外見すら機械人形のように演出した。整形で尖らせた鼻、銀髪のカツラ、黒一色の服、感情を排した表情。現在、エスパス ルイ・ヴィトン東京で開催中の『Andy Warhol - Serial Portraits』では、そんな彼の肖像を多く見ることができる。

 だが、ウォーホルは無機質な機械ではなかった。彼を芸術へと駆り立てていたのは「死」への強い恐怖という、あまりにも人間的な感情だった。モンローの作品は彼女の死をきっかけに描かれ、ケネディ大統領暗殺後には、未亡人となったジャッキーの姿を反復した。事故、自殺、骸骨の写真も作品に取り込み、死のイメージを量産した。

 それは、死の恐怖を和らげる行為だったのかもしれない。この世に唯一のものは高い価値をもつが、大量生産されたものの価値は低い。ウォーホルは、死をも大量生産品に変えることで、その恐怖を薄めたのだ。

 最初の問いに戻ろう。確かにAIでイメージはつくれる。だが、芸術を生み出す原動力は、美への憧れや死への怯えといった、人間だけがもつ感情にある。情報を処理するだけの機械にはそれがない。だからこそ、芸術は人間の仕事であり続けるのだ。

筧 菜奈子

東海大学教養学部芸術学科准教授。専門は現代美術史、装飾史。研究のほか、イラストやデザインなどでも幅広く活躍中。近著に『いとをかしき20世紀美術』(亜紀書房)ほか。

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