2020.10.20

自分専用の電気が欲しくてマイ電柱を建てました【オーディオ沼にハマる男たち#04】

たかが音、されど音。いい音を追求するオーディオの世界は、終わりがなく、どうやら底なし沼らしい。その姿は多様なれど、さまざまな形でハマった男たちのオーディオライフを聞いてみた。

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西蒲田にある出水電器の視聴室。2007年に自社ブランド「ALLION」を立ち上げ、そのアンプ製品はオーディオ界で権威ある賞を受賞するなど、評価は高い。

#04 島元澄夫さん(出水電器 代表)


どれほど高級なスピーカーやアンプを手に入れようとも、どれほどハイスペックなオーディオケーブルや電源コンセントに取り替えようとも、それはしょせん部屋の中の話。さらにいい音にしたいと願う生粋のオーディオマニアは、専用の分電盤を取りつけたりと、部屋の外の電源部にもこだわる。その究極ともいえるのがマイ電柱だ。

「変電所から送られてくる高圧の電気は、電柱の上のほうについている円筒形のトランスで低圧の電気に変換され、だいたい20軒とか30軒の家庭に分配されます。この状態だとよその家庭が電気を使うたびに細かいノイズが発生しますし、トランスとの距離が遠いとそのぶん電気がロスしやすくなって、それがオーディオの音の劣化の原因になっています。では、そうならないためにはどうすればいいのか。いろいろと考えた結果、自分の家専用のトランスを設置すればいいのだと思ったのです。これならほかの家に干渉されず、ピュアな電気をオーディオに供給でき、ほとんどノイズがない状態で音楽を楽しむことができます」

そう語るのは、マイ電柱の発案者であり、マイ電柱の設置工事を行う出水電器の島元澄夫さん。ちなみに、マニアはマイ電柱といわず、電柱の上にあるトランス、すなわち柱上トランスを略して、マイ柱と呼ぶ。

「ノイズが少なくなると音が非常に澄み切って聴こえるので、極端な話をすれば演奏者がここで勢いを込めて吹いているとか、反対にすーっと力を抜いて音が細くなっているとか、そういう微細な音まできれいに聴き分けられるようになります。業界やマニアの間では音が粒立っているという言い方をするのですが、一つ一つの音がきちんと出て、音の強弱と奥行きがちゃんと感じられるので、演奏家がどのような意図で演奏したかがよくわかる。ある程度のオーディオシステムを組まれている方であれば、それはもうはっきりと違いがわかります」

島元さんがマイ電柱の設置工事を始めたのは2004年。現在までに60件ほど建てたという。気になる費用はだいたい120万円ほど。工事期間は電力会社との交渉から始まり、すべて完了するまで3カ月から半年ほどかかる。マイ電柱、それはオーディオマニアの究極の夢である。

自分専用の電気が欲しくてマイ電柱を建てまの画像_3

「わが家専用のマイ電柱です」


[DATA]
スピーカー:DYNAUDIO Confidence C4,SONY SEM-5W
アッテネーター:Audio Synthesis ProPASSION
CDプレイヤー:ESOTERIC K-03X
レコードプレイヤー:GARRARD 301 Hammer Tone
パワーアンプ:ALLION S-200sv,ALLION A10



Photos:Tohru Yuasa
Composition&Text:Masayuki Sawada

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