松岡茉優さんが愛する名作 『夜明け告げるルーのうた』 

「元気なルーを観ているだけで、幸せな気持ちになるんです」

松岡さんが「全部が愛らしい」と語る好きな映画は、ある少年と人魚の出会いを、ポップな色彩と多彩な音楽でみずみずしく描いたアニメーション映画『夜明け告げるルーのうた』。「自分にとって好きなものとは」「大切なものとは」を突き詰める心踊るボーイ・ミーツ・ガールストーリーだ。


「皆さんの評価も高い作品ですが、私にとって好きじゃない部分がまったくありませんでした。映画ってもちろん観る人の好みによるので、途中で一瞬登場人物に共感できなくなったりしますよね。

その点、湯浅政明監督が手掛けた『夜明け告げるルーのうた』は、投げられた矢が全部私に刺さっている特別な作品。中学生の少年カイと人魚の少女ルーのかわいいやりとりや、劇中に流れる音楽、湯浅監督作品の優しい絵のタッチなどすべてがすばらしくて、全部が全部私に響いていて。

ルーが元気で駆け回っていると、私までハッピーになるし、うれしくてグッとくる。この作品のように、心温まる、元気をもられる、幸せになれる映画が好きですね」


 松岡茉優さんが演じる最新作『劇場』 

「甘え下手な男の子が、ポンって甘えられる子を目指しました」

若くして実力派女優として評価を得ている松岡茉優さんの最新作は、7月17日に公開した『劇場』だ。高校からの友人と立ち上げた劇団「おろか」で脚本家兼演出家を担う永田(山﨑賢人)に、「同じスニーカーを履いている」という理由で声をかけられた女優志望の女の子、沙希役だ。どうも様子がおかしい永田に戸惑いながらも、不思議な運命の下、恋の歯車が動き出す──。

前向きで健気な性格の沙希は、どこか孤独を感じている永田を優しく包み込む。笑顔を絶やさず永田を支える一方で、彼女は次第に変化を見せる。

「最初に台本を読んだとき、踏ん切りがつかない思いを抱えた人たちの背中をそっと押せるような作品になればいいなと感じました。蓬莱竜太さんが書かれた脚本を読んでいて、ひとつもわからないセリフや感情がなくて、共感も理解もできました。誰かにとっての誰かになりたいと思いました。

なかでも、梨を手に『梨があるところがいちばん安全です』という沙希のセリフを目にしたときは、胸がキューってなって。彼女の家に転がり込むようにやってきて同棲を始めた永田の『ここは安全か?』という問いへの答えなのですが、なんてキュートなセリフなんだ! って。男女が長く一緒にいる中で、キーアイテムがあると思いますが、二人にとってそのひとつが梨だったんです。そんな描写がすごく素敵だなと感じました」

物語の中で印象的なのは、沙希の明るい笑顔や優しい振る舞い。それは、才能という言葉に縛られながら苦悩する永田にとっても、また彼らを見守る私たちにとっても無垢な癒しそのもの。しかし、その裏には怒りや泣しみが隠れていて、繊細な感情を使い分けているように見える。

「山﨑賢人さん演じる永くん(永田)が精神的に甘えられるような相手になりたいと思っていました。私は気が強そうだねと言われるけど、そこを見せないように、髪の毛を明るく染めたり眉毛を薄くしたり、お化粧をメイクさんと相談しながら優しい感じにしたりすることを意識して。永くんは、ちょっと打算的なズルする甘えは得意だけど、自然にポンっと甘えるのが下手な人だと思ったので、そんな彼の側にいられる女の子を目指しました。

山﨑くんとは事前に、台本に対してどう感じたか、どう思ったか、どこで二人の歯車が狂い始めたのかなど、これほど相手役の俳優さんと突き詰めたことは私の中で今までないというくらい共通認識を大事に考えていました。

また、行定勲監督は私の1回目の演技を受け入れて、「今のもOKにしたけど、こんなのももらっておいていい?」と言ってくださったことがうれしかったですね。最初私が思っていた序盤の沙希のお芝居がちょっと違ったようなのですが、私のアプローチも認めながら、否定しない。行定さんはテイクを何度も重ねるとまことしやかに囁かれていて(笑)。でもそれは、テイクを重ねるのではなくて、その人のベストとシーンのベストを待ってくださる監督なんだとご一緒して思いました」

沙希とは、創作者や表現者である永田のような苦しみや葛藤を持つ人を支える役どころ。松岡さん自身、女優として支えられている存在や言葉はあるのだろうか──。

「私を支えるものは、携わった作品に対していただける、観た方からの感想です。以前引きこもりの役を演じたときには似た境遇の方から『学校に行けないけど家族と一緒にご飯食べてみようと思いました』とか、高校生のドラマに出たときには『高校受験に挑戦します!』とか、産婦人科のドラマが放映されたときには『助産師さんになりたいです』とか、自分が出演した作品で人の人生を変えることができると思えることが私の希望になっているんです。もちろん今作でも『誰かに届け!』と思って演じているので、これによって誰かが少しだけ生きやすくなったり、新しい夢の選択肢が増えたりしたらすごくうれしいですね」


『劇場』
監督:行定勲
出演:山﨑賢人、松岡茉優、寛一郎、伊藤沙莉、井口理(King Gnu)、浅香航大
●7月17日より全国公開/Amazon Prime Videoにて全世界独占配信

高校からの友人と立ち上げた劇団「おろか」で脚本家兼演出家を担う永田(山﨑賢人)。しかし、前衛的な作風は上演ごとに酷評され、客足も伸びず、劇団員も永田を見放してしまう。解散状態の劇団という現実と、演劇に対する理想のはざまで悩む永田は、言いようのない孤独を感じていた。そんなある日、永田は街で、自分と同じスニーカーを履いている沙希(松岡茉優)を見かけ声をかける。自分でも驚くほどの積極性で初めて見知らぬ人に声をかける永田。突然の出来事に沙希は戸惑うが、様子がおかしい永田が放っておけなく一緒に喫茶店に入る。女優になる夢を抱き上京し、服飾の学校に通っている学生・沙希と永田の恋はこうして始まった。

https://gekijyo-movie.com/story/

『夜明け告げるルーのうた』
監督:湯浅政明
声の出演:谷花音、下田翔大、篠原信一、柄本明、斉藤壮馬、寿美菜子、千鳥(大悟、ノブ)

寂れた漁港の町・日無町(ひなしちょう)に住む中学生の少年・カイは、父親と日傘職人の祖父との3人で暮らしている。離婚した父や母に対する複雑な想いを口にできず、鬱屈した気持ちを抱えるカイ。唯一の心の拠り所は、自ら作曲した音楽をネットにアップすること。ある日、クラスメイトが組んでいるバンド「セイレーン」のメンバーに誘われる。しぶしぶ練習場所である人魚島に行くと、人魚の少女・ルーが3人の前に姿を現した。楽しそうに歌い、無邪気に踊るルーと日々行動をともにすることで、カイは少しずつ自分の気持ちを素直に口に出せるようになっていく。しかし、古来より日無町では、人魚は災いをもたらすとされていた。ルーと町の住人たちとの間に大きな溝が生まれてしまう中で、町に大きな危機が訪れる…。

https://lunouta.com

松岡茉優 MAYU MATSUOKA
1995年2月16日生まれ、東京都出身。2008年、『おはスタ』でおはガールとして本格デビュー。’12年の映画『桐島、部活やめるってよ』や、’13年のNHK連続テレビ小説「あまちゃん」などで注目される。’16年には『その『おこだわり』、私にもくれよ』、『水族館ガール』でテレビドラマ主演を務める。’16年の映画『猫なんかよんでもこない。』、『ちはやふる‐下の句‐』で、第8回TAMA映画賞最優秀新進女優賞、第40回山路ふみ子映画賞新人女優賞を受賞。’17年の『勝手にふるえてろ』にて映画初主演を務め、第42回日本アカデミー賞優秀主演女優賞を受賞。’18年の『万引き家族』で同優秀助演女優賞を受賞。また、’19年の映画『蜜蜂と遠雷』で第32回日刊スポーツ映画大賞 主演女優賞、第43回日本アカデミー賞優秀主演女優賞を受賞。公開待機作に『騙し絵の牙』がある。

Photos:Toshiyuki Tamai
Hair&Make-up:Ai Miyamoto[yosine.]
Stylist:Yusuke Arimoto[7回の裏]
Interview & Text:Hisamoto Chikaraishi