手にする人によって姿と価値を変える
現代アートを理性的、かつスリリングに追う

いつからアートが商品になったのか。誰が何のために買っているのか。そもそも、アートの値段って何だろうか。本作は、『マイ・アーキテクト ルイス・カーンを探して』でアカデミー賞にノミネートされたナサニエル・カーン監督が、誰もが抱くそんな疑問を美術界の有力者たちにダイレクトに投げかけながら、アートとお金の関係を探るドキュメンタリーだ。取材対象は、現代アートを生み出すジェフ・クーンズをはじめとする超一流アーティストやオークショニアなど、アート界を支え賑わす人々。彼らの十人十色の価値観がせめぎあいながらも共存するアートの世界をめぐり、カーン監督はもうひとつの問いを私たちに投げかける。そもそも、アートの価値って何だろうか──。

現在アート作品は、株や不動産のように投資の対象となり、世界のアート市場は成長し続け、かつてないバブルに湧いている。世界各地でアートフェアやオークションが開催され、富裕層を中心に個人で楽しみ、所有するものとなった。本編では、現代アートが初めて高値で取引された(いわば現代アートとお金の蜜月な関係が築かれた)伝説のスカル・オークションを振り返りながら、冒頭で触れた“アートの値段”をめぐり、当事者たちにスポットを当てていく。当事者とは、ジェフ・クーンズ、ラリー・プーンズ、ジョージ・コンド、マリリン・ミンター、ジデカ・アクーニーリ・クロスビー、ゲルハルト・リヒターといった世界的アーティストに、彼らの作品を取り扱う情熱的なオークショニアや時代を創るギャラリスト、膨らみ続ける現代アート・バブルを憂う評論家に、次々と供給される作品に魅入られたコレクターだ。彼らが捉える“アート”を同じテーブルの上に広げ一列に並べると、まったく別物だとわかるからおもしろい。

アートは、才能を秘めた作り手の創作意欲から生まれた純粋なものだが、扱う者の視点と利害によってこんなにも異なる性質を持つものだと、衝撃さえ受けるだろう。作品の扱い方ひとつを取っても──ドイツ人アーティストのゲハルト・リヒターは自分の作品を「自宅の価値を上げるような個人のコレクションより美術館で展示される方がいい。お金は汚い」とカメラの前で語り、サザビーズのオークショニア、エイミー・カペラッツォは「美術館は好き。だけど、膨大にある作品は正しく日の目を見ない。まるで墓場」と持論を展開する。

また、アート作品はいろいろな人の手に渡るたびに、保護色を持つ生き物のように姿と価値を変えていく。劇中ではオークショニアのシモン・デ・プリが「アートの市場が膨らんでいく中でも、人の好みは変わり続け、重要だと思われ高値をつけられたものが50年後もそうだとは限らない」と語る。アートは至極刹那的であると思いながらも、多くの人が魔力とも言える作品の魅力と自らの思惑に熱狂してしまうのだ。価値があるから値段がつく。値段が付いているから価値がある。その真実はひたすらに、ひたむきにアートに向き合うことで見えてくるのかもしれない。


『アートのお値段』

監督:ナサニエル・カーン
出演:ラリー・プーンズ、ジェフ・クーンズ、ステファン・エドリス、ジョージ・コンド、ジデカ・アクーニーリ・クロスビー、マリリン・ミンター、ゲルハルト・リヒターほか
2019年8月17日より、渋谷・ユーロスペース他にて全国順次公開

『アートのお値段』公式サイト

Text:Hisamoto Chikaraisi