癒しをもたらす芸術の尊さと
生きることを諦めない人の強さを知る

バーからの帰り道で5人の男に暴行されたマーク・ホーガンキャンプは、瀕死の重傷を負い、9日間の昏睡状態に陥る。脳に障害を抱え、襲撃の後遺症(PDSD)に苦しむ彼はまともな治療も受けられず、セラピー代わりにフィギュアの撮影を始める。自宅に作った空想の世界「マーウェン」ではG.Iジョーのホーギー大尉と5人のバービー人形が、迫り来るナチス親衛隊と日々戦いを繰り広げていた。地域の人々の理解と協力で彼の写真は評価され、やがて個展が開かれることになる。「マーウェン」で戦う勇気を与えられたマークは、避けていた暴行事件の裁判で証言しようと決意するが…。

本作で描かれる色とりどりの空想世界は、2000年に38歳のマークの身に起きた痛ましい事件に端を発する。彼が事件後に意識を取り戻した時、事件はおろか、成人後の記憶がほぼなく、食べる、歩く、文字を書くなど基本的なこともできなかったという。残った酷い脳障害と後遺症により灰色と化した世界でマークが掴んだ一筋の生きる希望は、6分の1フィギュアの世界だった。自分や友人、そして自分を襲った加害者達を模した人形を使い、自宅にジオラマで築いた第二次世界大戦中のベルギーという設定の「マーウェン」で、自らが語り部となってオリジナル・ストーリーを紡ぐ。彼の空想世界が頭の中で自由に羽ばたき、それにより現実世界に彩りを取り戻していく様子は、我々に人の可能性を感じさせ、同時に芸術活動には人を再生させる力があることを教えてくれる。

悲惨な出来事をきっかけに目覚めた、類稀なる新たな才能。限りのない水平線のように広がり続ける想像力と、一つの世界を作り上げる確固たる創造力。マークは苦しみ怯え、葛藤に悩みながらも、開花したこの2つの能力を使った写真という芸術で心を癒し、生命力を取り戻す。本編では、現実と空想の世界に起こる物語を魅力的、かつダイナミックに描いている。緻密に製作されたフィギュアやジオラマと、マーク演じるスティーブ・カレルをはじめとする俳優たちのモーション・キャプチャ撮影により、観る者が両方の世界を視覚的にシームレスに行き来することを可能にしている。

本作は、2010年に公開されたジェフ・マルムバーグ監督のドキュメンタリー『マーウェンコル』をフィクションとして映画化したもの。監督を務めたロバート・ゼメキスがこの映画で大切にしていたことは、“ホーガンキャンプの空想の世界に観客を連れて行くこと”。心と身体に深い傷を負った男が希望を捨てずに再生していく姿を描いたファンタジー溢れる名作だ。そして、ファンタジーのエッセンスとして、ゼメキス監督だから物語に盛り込めた “心踊るあのマシン”も出てくる。40歳男子ならきっと、マークの空想世界に勇気づけられるはずだ。


『マーウェン』

監督:ロバート・ゼメキス
出演:スティーブ・カレル、レスリー・マン、ダイアン・クルーガー、メリット・ウェヴァー、ジャネール・モネイ、エイザ・ゴンザレス、グェンドリン・クリスティー、レスリー・ゼメキス、ニール・ジャクソン
2019年7月19日、TOHOシネマズ シャンテほか全国公開
©2018 UNIVERSAL STUDIOS

『マーウェン』公式サイト

Text:Hisamoto Chikaraishi