自分らしさを見つけたくてプールに飛び込む!
水中で踊る姿に元気をもらえるおじさん賛歌

2年前からうつ病を患い、会社を退職して引きこもりがちな生活を送っているベルトラン。子供たちからは軽蔑され、義姉夫婦からも嫌味を言われる日々をどうにかしたいと思っていたある日、地元の公営プールで「男子シンクロナイズド・スイミング※」のメンバー募集を目にする。途端に惹きつけられたベルトランはチーム入りを決意するが、そのメンバーは、妻と母親に捨てられた怒りっぽいロラン、事業に失敗し自己嫌悪に陥るマルキュス、内気で女性経験のないティエリー、ミュージシャンになる夢を捨てられないシモンなど、全員家庭や仕事、将来になにかしらの不安を抱え、ミッドライフ・クライシス(中年の危機)真っただ中の悩めるおじさん集団だった。元シンクロ選手のコーチ、デルフィーヌの指導のもと、あらゆるトラブルに見舞われながらトレーニングに励むおじさんたちは、無謀にも世界選手権で金メダルを目指すことになるのだが…。

人は年を重ねるにつれて仕事に習熟し、キャリアを積み、経済的に豊かになっていく。一方で、代謝が落ち、体型が変わり、体力が落ちていく傾向にある。もちろん例外はあるが、社会を支える働き盛りの男性の多くは、この反比例に当てはまると思う。さらにライフステージによっては、自分の健康や子供の教育、両親の面倒など、考えることが多岐にわたる。お金はあるが体や気持ちがついていかない。思い込みやプライドが邪魔して、新しいことを始められないこともなんとなくわかっている──。なんて、中年の悩みをつらつらと書いてしまったが、この中で少しでも共感できる部分があったら、本作を観ることをおすすめしたい。これは、主人公のベルトランをはじめとする、我々に近い“不恰好な人間臭さ”を持つ登場人物たちを見て笑ったり安心したりするコメディではなく、よりよい中年になるためのエネルギーが込められているおじさん賛歌なのだから。

日本では、2001年に公開された人気の映画『ウォーターボーイズ』をきっかけに男子シンクロナイズド・スイミング※は親しみを持たれているし、銭湯文化に根付いた“裸の付き合い”というコミュニケーション方法もある。そのせいか、さえなくて体型ユルユルのおじさんたちが、一緒に一つの競技に夢中になり、世界大会に出場しようとする夢は、身近にいるヒーローとして眩しく映る。そして、ベルトランが惹かれた男子シンクロナイズド・スイミング※は多くの40歳男子に向けたメタファーでもある。息ができない、思うように身動きが取れない水中だからこそ美しい姿を見せることができるのだ。自分では如何ともしがたい、どこか理不尽に感じるような環境や状況に置かれた時こそ、自分らしさを発揮できるのではないか。世界大会で優秀な成績をおさめることはたしかに重要だが、この映画で見るべきはプールの中でまじめにもがく姿である。そんな彼らを前に、身の回りで気になったことがあったら、まずは挑戦してみよう思えてくる。そう、青春は今からでもはじめられるのだ。


※2017年7月22日、国際水泳連盟が種目名を「シンクロナイズド・スイミング」から「アーティスティックスイミング」に変更すると発表。それに伴い、日本水泳連盟も2018年4月1日から種目名等を「アーティスティックスイミング」に一斉に変更した。


『シンク・オア・スイム -イチかバチか俺たちの夢-』

監督:ジル・ルルーシュ
出演:マチュー・アマルリック、ギョーム・カネ、ブノワ・ポールヴールド、ジャン=ユーグ・アングラード、フィリップ・カトリーヌ、ヴィルジニー・エフィラ:デルフィーヌ
2019年7月12日、新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開
©2018 -Tresor Films-Chi-Fou-Mi Productions-Cool industrie-Studiocanal-Tf1 Films Production-Artemis Productions

『シンク・オア・スイム -イチかバチか俺たちの夢-』公式サイト

Text:Hisamoto Chikaraishi