思惑の違う4人が黄金とともに手に入れるのは
互いの友情か、己の欲望か

時は1851年、富を得ようと人々が沸いていたゴールドラッシュ。アメリカ・オレゴンのとある町に、最強と恐れられる殺し屋兄弟がいた。兄のイーライと弟のチャーリーは、一帯を仕切る提督からの依頼で、仕事仲間の連絡係のモリスとともに、黄金を見分ける化学式を発見した化学者ウォームを追いかける。しかし、黄金に魅せられた4人は、立場を超えて手を結ぶことに…。黄金を元手に暴力や貧富の差のない理想の社会を作りたい化学者、そんな彼の夢に心酔しはじめる連絡係、普通の平穏な暮らしに憧れる兄、裏社会でのし上がりたい弟。それぞれが思惑を抱きながら、ついに黄金を手に入れる4人だが、その時彼ら自身も想像していなかった本当の欲望があふれ出していく。

本作『ゴールデン・リバー』は、誰もが目の届く川に人知れず眠る黄金をめぐり繰り広げられるサスペンスだ。しかしその実、原題『THE SISTERS BROTHERS』の通り、恐れを知らない殺し屋、シスターズ兄弟を中心とした人間ドラマなのである。圧倒的な強さを見せ、その熊のような見た目に反してロマンチストでお人好しの兄イーライと、凶暴な野心家でありながら少年のような愛嬌を見せる弟チャーリー。兄弟が追いかけるのは、他人を魅了するカリスマ性を秘めた化学者と彼の人間性に惹かれ友情を感じている兄弟との連絡役を務めるモリス。物語で登場するのは、善意を秘めながら戦い続ける悪人と、粗暴な振る舞いをする生粋の悪人。そして、己の理想を追いかける善人と、悪に染まりきれない善人。それぞれの資質や心情、そこから生まれる黄金をめぐる思惑のグラデーションが、4人をギリギリの状態でつなぎとめ、スリリングな展開をもたらす。

町から町へと何日も馬を駆り、そこで得た目撃証言を頼りにイーライとチャーリーは、逃げ続けるウォームとモリスをじりじりと追い詰めていく──いわゆる逃走劇や決闘を描くウェスタン映画らしい型にはめることで、今となっては不器用で非合理に思えるこの時代設定が、登場人物が持つ微妙かつ人間的なズレを奥深く描いている。スマートフォンやインターネットで相手の居場所や行動が簡単にわかり、無人で追跡できる世の中ではなく、相手や敵との駆け引きに時間をかけ、その中で本人が予想もしない情緒が入り込む心の隙が生まれる前時代的な舞台だからこそ表現できた人間模様があると、本作を見て思えてくるのだ(同時に、人間が持つ残酷さや身勝手さも生々しくリアルで、緊張感もたっぷり)。共同戦線をはり、一度は4人の間に横たわる冷酷な戦いに、友情という温もりが生まれるが…。黄金を前に疼いたそれぞれの欲望はどのような形で浮かび上がるのか、予想を裏切るラストまで目をそむけてはいけない。


『ゴールデン・リバー』

監督:ジャック・オーディアール
出演:ジョン・C・ライリー、ホアキン・フェニックス、ジェイク・ギレンホール、リズ・アーメッド
2019年7月5日、TOHOシネマズ シャンテほか全国公開
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『ゴールデン・リバー』公式サイト

Text:Hisamoto Chikaraishi