家族の真実を追い求めた先に待つのは
絶望と救いが同居する抗えない運命

作品制作のために著名な彫刻家ジャウメの邸宅にやってきた画家のペトラ。彼女の本当の目的は、ジャウメが自分の父かどうか確かめることだった。しかし、彼と接し知っていくうちに、権力を振りかざす冷酷な人間であることがわかる。そんななか、一家の家政婦が謎の自殺を遂げる。そこから始まる長い負のスパイラルに、ペトラも巻き込まれていく…。

ペトラは、家族の中でタブーとされていた父についての真実を探る決意をした。父親と思しき人物、ジャウメと対峙し、過去の秘密に触れたとき、彼の邪悪さが露わになる。そして、その先には絶望と救いがペトラを待っている。光が届かないほどに深い場所に流れる淀んだ真実は、自分の人生にじわじわと浸透していて、逃れられない運命へと形を変えていたことを知る。絶望と救いが、寄せては返す波のようにペトラの心を揺さぶる。新たな悲劇が起こるたびに、動揺はすれど静かに対峙する。劇中で彼女が知人に「正気と狂気の瀬戸際にいる」とさらりと漏らすシーンがある。ペトラは感情の乏しい人というわけではなく、あらゆる感情に慣れてしまった人なのだと気づく。それまでに、ペトラは多くの自問自答を繰り返してきたに違いない。母が隠し続ける家族の秘密。本当の父親とは誰なのか──。そこで揺らぐ己のアイデンティティ。自分は何者か──。この物語が描かれる以前の彼女の半生に、思いをめぐらせないわけにはいかない。

ペトラが歩んできた過去と、進まんとする現在に、観客は緊張感を持ってのめり込んでいくだろう。物語(=ペトラの半生)をチャプターに分け、かつ時系列を入れ替え展開される本編。原因と結果を前後させることで、観る者に簡単な謎解きをさせず、その代わりに小説や舞台のように編集されたライヴ感を与える。流れている映像を追いかけるのではなく、観ながら考えさせる仕組みになっているのだ。映画としては実験的でありながら、何度も揺れ動くペトラの感情を表現するのに優れた手法なのだと実感する。寄せては返す波のように組まれたストーリー展開に、我々の心も大きく揺り動かされる。


『ペトラは静かに対峙する』

監督:ハイメ・ロサレス
出演:バルバラ・レニー、アレックス・ブレンデミュール、ジョアン・ボテイ、マリサ・パレデス
2019年6月29日より新宿武蔵野館、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開
©2018 FRESDEVAL FILMS, WANDA VISIÓN, OBERON CINEMATOGRÀFICA, LES PRODUCTIONS BALTHAZAR, SNOWGLOBE

『ペトラは静かに対峙する』公式サイト

Text:Hisamoto Chikaraishi