素直な気持ちを音楽で伝える
仲良し親子が見つけた家族の絆と明るい未来

フランクはブルックリンで営んでいたレコードショップをこの夏にたたむことにした。シングルファーザーとして娘のサムを育て、成長した彼女はLAの医大へ行くことが決まっていた。ある夜フランクは、勉強中のサムの邪魔をして一緒に曲をレコーディングする。サムは「私たちはバンドじゃないわよ」と告げるが、フランクは一緒に作った曲を衝動的に、音楽ストリーミング・サービスのSpotifyにアップロードしていた。じきにその曲は“New Indie Mix”にリストインされ、たくさんの人の耳に届き始めた。急に未来の扉が開かれた気分になるフランクに対し、サムは恋や学業といった人生の課題が山積み。彼女が音楽に賭けた人生の冒険を親子で始めることに前向きになれないまま、2人は人生の決断を迫られていく。

フランクは、かつてともにバンドを組んでいた妻と死別してから、娘のサムに対し、ときに優しい母親のように、ときに仲の良い友達のように接して大事に育ててきた。ある晩、フランクはサムを誘って久々にジャムセッションをする。親子のコミュニケーションとして、言葉だけではなく音を交わすことで、お互いの気持ちや時間を共有してきたのだろう。しかし、この夜はいつもと少し違った。サムが何気なく披露した詞とメロディに、母親から受け継ぐ音楽の才能を感じ取る。いつも仲良く語り合っている2人が、“音楽”で1つに繋がった瞬間だった。物語が動き出すきっかけでもある演奏シーンは、娘に対して愛情や絆や誇りを感じる父親の、顔には出さないけれどうれしそうな気持ちで満たされている。それからフランクとサムは楽曲制作を進めていく中で、彼女が作り出すピュアな詞から、フランクはサムという人間を深く知っていく。彼もまた娘に、亡き母親への思いを優しいギターの旋律とともに語りはじめる。歌に乗せた言葉は何より正直で、観る者の心の奥にすっと沁み入るのだ。

音楽の楽しみ方において、アナログ盤やCDからストリーミングへと変化するパラダイムシフトが起きて久しい。気ままにレコードショップを経営するフランクも身を持って経験しているかもしれない。しかし、そんなフランク自身、ストリーミング配信の代表格であるSpotifyに自分の曲を登録し、注目を集めたことで、娘とのバンド活動を進めようとする。生活するためにこのまま店を閉めて、働き口を探そうと思い描いていた自分の中の“当たり前”を覆そうとする。音楽で人生のパラダイムシフトを願おうとするのだ。それは、すべては娘のためであり、未来を見据えた、人生という物語の第二部を踏み出そうとするフランクの意思の強さを表している。果たして、2人はミュージシャンとしての夢を追いかけるのか。または、再就職や進学をしてそれぞれの人生を歩むのか。このかわいらいしい親子が選んだ道を描くクライマックスはぜひ自身の目で確かめてほしいが、ひとつ伝えたいのは、最後まで観客を感動させる愛情と希望と音楽で溢れているということだ。


『ハーツ・ビート・ラウド たびだちのうた』

監督:ブレット・ヘイリー
出演:ニック・オファーマン、カーシー・クレモンズ、トニ・コレット、テッド・ダンソン、サッシャ・レイン、ブライス・ダナー、クインシー・ダン=ベイカー
2019年6月7日よりヒューマントラストシネマ渋谷、新宿シネマカリテ他にて全国公開
©2018 Hearts Beat Loud LLC

『ハーツ・ビート・ラウド たびだちのうた』公式サイト

Text:Hisamoto Chikaraishi