不可思議な誘拐事件があぶり出す
家族の光と陰に、胸を震わせる

アルゼンチンに暮らすラウラは、妹の結婚式のため故郷スペインに帰省し、ワイン業を営む幼なじみのパコや家族と久々に再会する。しかし、和やかな宴が開かれたその夜、突如娘のイレーネが消え、じきに身代金を要求するメッセージが届く。一家が「通報したら殺す」と脅すメールに戦慄し、パコは時間稼ぎに奔走し、ラウラの夫もアルゼンチンから駆けつけるが、疑心暗鬼に陥った家族の中で、長年隠されていた秘密が露わになっていく…。

家族が集まる幸福な時間に、ラウラをはじめとする一家は不幸のどん底に落とされてしまう。姿を消したイレーネの部屋には、数年前に地元で起こった少女誘拐殺人事件を報じた新聞記事の切り抜きが置かれ、村に停電を起こすために電線も切断されていた。実に用意周到に仕組まれていた不可思議な事件だった。かつてラウラたち家族と生活を共にし、彼女と恋人関係にあったパコは、ラウラを心身ともに支えながら、イレーネの安否を祈る。そんな彼を中心に、複雑な因縁で結ばれたそれぞれの家族の愛と憎しみ、猜疑心があぶり出されていく。精神的にも肉体的にも追い詰められる中で、事件はしだいに各人の人柄を浮き彫りにし、互いの関係をいびつに変えていく。誘拐事件の発生を境に、一見幸せな家族が一転、それぞれの背景を持つ個人へと細分化されていく。ファミリーという共同体の中で折り合いをつけていた気持ちや感情が、思わぬ形で吹き出てくる様子がリアルで、生々しいのだ。そのために観る者は、ふと自分に置き換え、共感し、身を震わせるだろう。そして、家族が極限状態に陥り、行き詰まったときにラウラの口から明かされた驚くべき過去。群像ミステリーはまたひとつ舵を切り、観客を思わぬ方向へ裏切っていく。

アスガー・ファルハディ監督が15年前にスペイン南部で行方不明になった子供の写真を見たことがきっかけで作られた本作。また、長年構想を温めたこの企画で、ラウラとパコの二人の主人公に、実生活で夫婦であるペネロペ・クルスとハビエル・バルデムを当て書きして作り上げていった。過去と現実が衝突することで愛や憎しみを描き出す秀逸な群像劇は、そういったリアリティが物語の骨組みとして十全に機能しているものだと、思わず膝を打つほどだ(実際は、緊張感のある展開が全編133分間にわたって続き、膝を打っている場合ではないが…)。果たしてイレーネは無事に戻ってくるのか。いびつになった家族は元に戻るのか。スクリーンの前で何もできない我々は、小さな村が迎える衝撃のラストを見届け、その先に続く家族の行く末を夢想するしかない。


『誰もがそれを知っている』

監督:アスガー・ファルハディ
出演:ペネロペ・クルス、ハビエル・バルデム、リカルド・ダリン
2019年6月1日より、Bunkamuraル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開
© 2018 MEMENTO FILMS PRODUCTION – MORENA FILMS SL – LUCKY RED – FRANCE 3 CINÉMA – UNTITLED FILMS A.I.E.

『誰もがそれを知っている』公式サイト

Text:Hisamoto Chikaraishi