不完全な家族の1日を通して語られるのは
愛する人と共有する人生の美しさ

クリスマス・イヴの朝、19歳のベンが実家に突然戻り、家族を驚かせる。彼は薬物依存症の治療施設を抜け出して帰ってきたのだ。久しぶりの再会に母のホリーは喜ぶが、疑い深い妹のアイヴィーと良識の継父のニールは、過去の経緯から、ベンが何か問題を起こして家族の生活を脅かすのではないかと不安に駆られる。両親は話し合いの末、ホリーの24時間の監視下にいることを条件に、ベンに滞在を許可する。その夜、一家が教会でのクリスマスの催しから戻ると、家の中が荒らされ、愛犬が消えていた。ベンは何か思い当たったように凍てつくような夜へと飛び出していく。ベンが過去を清算しようとする中で、彼の人生を食い荒らす恐ろしい事実を知ったホリーは、自分の息子を救えるのは自分だけであることに気づき、全身全霊をかけて守ることを決意する。しかし、ベンはホリーの前から姿を消してしまうのだった。

車で帰宅した家族の前に、招かれざる客のようにふらりと現れた青年。家族の反応はまちまちで、観客は一気に青年ベンに意識を集中する。そして、彼が家族の長男だと認識したとたん、舞台はクリスマス・イヴだというのに辺りを生暖かい不穏な空気で包まれるように感じる。かつてケガの治療による鎮痛薬の過剰投与で知らぬ間に薬物依存症に陥ってしまい、今もその疑いのある息子は、両親と妹たちの心配をよそに、明るく振る舞う。徐々にベンと母ホリーをはじめとする家族の間に、“信じたいけど信じられない”というアンビバレントな違和感の幕が垂れる。まるで、薄いけれど破れない半透明の幕だ。そして、彼の帰宅と呼応するようにセンセーショナルな事件が起こると、ベンの目は冬の夜のように冷たく暗く濁り始める。唯一息子の帰宅を喜んだホリーも、幕の奥へと消えていくベンをもはや留まらせることができない。物語は、ベンの過去を掘り起こし、家族の中に根を下ろしてしまったその相反する疑念を増幅させながら、サスペンスフルに展開していく。

もしかしたら、これが家族の愛情と絆の物語だと気づくまでに少し時間を要するかもしれない。母親であるホリーは愛情深い女性であるが故に、信じる力を人一倍強く持っている。正しい道に戻ろうとする息子のベンを信じ、彼を救えるのは自分だと信じている。はたして愛情を持って優しくすることがベンにとって正しいのか、厳しく接することが最善の策なのか。ホリーはその葛藤の真っ只中におり、迷いながらも前に進もうとする彼女の姿は我々に問いかけてくる。一度掛けられた薄い幕を取り払うために必要なのは、相手への純粋な気持ちなのではないか、と。本作では子どもを持つ親の目線でその答えが描かれているが、大切な親や親友や恋人を持つ自分に置き換えることもできる。ホリーとベンに、人生の危うさと同時に、家族、もとい親しい人だけが共有し得る人生の美しさを見出すだろう。


『ベン・イズ・バック』

監督:ピーター・ヘッジズ
出演:ジュリア・ロバーツ、ルーカス・ヘッジズ、キャスリン・ニュートン、コートニー・B・ヴァンス
2019年5月24日より、TOHOシネマズ シャンテほか全国公開
©2018- BBP WEST BIB, LLC

『ベン・イズ・バック』公式サイト

Text:Hisamoto Chikaraishi